海底パイプライン(八十六)
「ふぅ。あいつら、一体何だったのかしら……。海苔も取れたし」
朱美は鏡を見ながら化粧を直している。悔しいかな、確かに高田部長の指摘通り、唇に海苔がベッタリと付いていた。恥ずかしい。
山田が笑っている時点で『気が付くべきであった』と思うが、それは難しいか。彼女はいつでもどこでも『ケタケタ』笑っているし。
寧ろ高田部長が気が付いて、教えてくれればこそとも思える。かなりムカつくが。奴が一番信用出来ない。
「そう言えば『Cー4』って、何だったのかしら?」
ふと朱美は思い出す。自宅から怪しい四人組を追い出すときに、サーバーに張られている『小さな警告』について質問したときだ。
それは説明によると、NJSとして『この中には見てはイケない物があります』と『封印用』として貼られているのは理解出来る。
が、聞きたかったのは、そのシールに『Cー4に注意』と朱書きされていた方。可愛い『ペンギンマーク』が逆に怪しい。
「まぁ良いわ。既に2テラのSSDが、十枚も入ってるって言うし」
思い出して吹き出しながら、朱美は化粧室を出た。
確かにそれだけ入っていれば、サーバーの筐体を開けて増設することもあるまい。ハードの調達は選定から組み込み、微調整を考えると結構骨が折れる作業だ。だから『全部込み』は逆に丁度良い。
これまでの所、外部からの接続は一切遮断していている。今後も許すことはないだろう。しかしあれから三カ月。ソフトウェアの調整の方は、結局朱美が全部行うことになった。何だか知らないが、暇で有名な琴坂課長は忙しくなっているし。
その理由は、『今日の説明』でやっと判った訳だが。実に下らん。
高田部長が絡んでいるプロジェクトに巻き込まれると、いつもとんでもない目に合う。この間だって会社の中で殺され掛けたし。
「あっ、戻って来た。朱美ちゃん、コレよろしくね」「はいぃ?」
高田部長から、突然一枚の『カード』を手渡された。受け取ってしまったものの、朱美は困惑する。真っ白い『セキュリティーカード』は、どう見ても『怪しい匂い』がプンプンするのであるが。
「何ですか? これ」「良いから良いから。時間無いから支度して」
説明も無しに『言う通りにしろ』と言われて、『ハイ判りました』と言う程、朱美は決してお人好しではない。
「いやだから何ですかぁ?」「山ちゃん、案内してあげて」「はい」
ドジっ子山田はお人好しだ。自分に関係ないことなら、例え案内先が『地獄』であっても、にこやかに案内するだろう。
山田に乱暴を働く程、朱美も子供ではない。折角戻って来た自席を前に、押し出されるように再び退席させられて行く。
「あぁ今日は『しゃぶしゃぶ』になったからぁ。場所は三十路ねぇ」
予想通りではないか。朱美は『ピキピキッ』となって言い返す。
「私ぃまだ『三十』行ってませんっ!」「高田部長、違いますよぉ」
あの朱美の顔は『他の同僚からフォローが入った』ので、『一旦は許す』であろうか。プイっと前を向いて出て行った。
「あれ、そうだっけぇ?」「絶・対・『わざと』言ってますよねぇ」
女性の年齢を聞いて良いのは『小学生まで』と言う噂だ。後は『一発やれるか』の年齢確認と思われるので、絶対に禁句とのこと。
「じゃぁ、お前もそろそろ準備よろしくなぁ」「もう時間ですか?」
「だって、そろそろAV事業部で『エミュー』が暴れてる頃だろ?」
嫌な『コードネーム』を聞いて牧夫の顔が歪む。凄く嫌そうだ。




