海底パイプライン(七十七)
「何々? 『経験者』は語る口ぃ?」「まぁ、経験豊富だからねぇ」
からかうイーグルを否定するでもなく、寧ろ意味深に答える琴美。
パパは複雑な表情だ。しかし女として、少し謎めいていた方が良いこともある。琴美はにこやかに、人差し指を横に振るだけだ。
実際今の『快楽の源泉』は、『七日振りのお通じ』であった。何しろ今朝出たのだから、記憶にも新しい。違う物で例えるなら、人間ドックの翌々日『白いのが出たとき』であろうか。
「あのぉ『イク』と、自動で『花火が打ち上がる』んですかぁ?」
どちらかと言うと朱美は、琴美の『イッた顔』よりも、『花火の方』が気になったみたいだ。確かに本番での雰囲気は重要。
「そそ良いでしょ。今のはスターマイン。お勧めのオプションです」
今度はペンギンがしゃしゃり出て来た。早速『見本』を起動する。
『ヒュルルルルルルゥ。アッハーンッ。パラパラパラァ』
浴室の壁から丸いドームに掛けて、打ちあがった花火を指さす。
「これがね『菊』。良いでしょぉ。割物の一種ねぇ」
説明が終わったと同時に、次の打ち上げの準備に掛かる。
「はぁ。何か『音』が変ですけど? 何で『アッハーン』に?」
『ヒュルルルルルルゥ。ウッフーンッ。パラパラパラァ』
「型物の冠菊えっ、菊が良かったぁ?」
朱美が『アッハーン』何て言うものだから、説明を途中で打ち切ったペンギンが少々慌てている。
「いやそうじゃなくて、何で花火なのに『ドーン』じゃないんでs」
『ヒュルルルルルルゥ。アッハーンッ。ヒュゥンヒュゥンヒュゥン』
「あっ飛遊星が出ちゃった。ポカ物もあるんですよ」
画面を見て恥ずかしそうに頭を掻いているが、そういうことじゃない。するとパパを押し退けて立ち上がった琴美が説明をする。
「最初からオプションが入ってましてぇ、気に入ったらご購入頂けるんですけどぉ、購入するまでは『サンプル扱い』となってます」
「あぁ。それで『擬音』が入ってるんですか? 何か変ですけど」
「はいあのぉ、こちらあくまでも『試供品』ですので、『本番での使用を避けて頂くため』に、わざと『盛り下がる音』にさせて頂いてます。購入して頂ければ、それはもう『良い音』になります」
流石は三十分の研修を受けただけのことはある。立て板に水の説明だ。朱美も『なるほどぉ』と頷いているではないか。
「でも何で、私の声なんですか?」「えっ? 何がですかぁ?」
実は琴美も『ちょっと似てるなぁ』と思っていた。急いでペンギン、イーグル、パパの順に顔を向けるが、次々と避けられてしまう。
「いや、誤魔化さないで下さいよ。今の『アッハーン』て声、絶対私の声ですよね? これ、そのまま『製品化』されても困ります!」
「ちょっとパパ、どうなの?」「えぇ? いやどうなのってぇ……」
振られたパパだって、『ネタばらし』をして良いのかイーグルの顔を覗き込もうとしているが、当然『お前が説明しろ』である。
「人工知能三号機の声」「だったら私ですよね!」
「あぁあぁ、そうとも言いますねぇ」「そうとしか言いませんっ!」
『ヒュルルルルルルゥ。イックゥゥンッ。パラパラパラァ』
話を遮って、違う花火が打ち上がっていた。ペンギンが首を捻る。
「あれれぇ? 万華鏡も同じ声かぁ。これ、割物ねっ」




