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海底パイプライン(七十四)

「おぉ。良い感じになって来たじゃぁん。やっぱり実物は違うねぇ」

 まるで『ラブホテル』にでも来た感じになっているが、残念。今日の相手は『パパ』である。いや、合っているのか。


「では監督、お願いします」「はいよぉっ! 任せておきなっ!」

 曲げた両腕を前後に揺すって気合十分。二番の岩に座りながら、もうスカートをビローンと捲っていた。ピントが合い始める。


「へいパパッ! カマーンッ!」

 足を広げた娘に手招きされてパパはたじろぐ。普段から『浮気をしたら何をするか判らない』と言われている愛妻家である。

 それが仕事でパパ活をしていたら、娘がやって来てしまったこの状況。さて。今日一緒に家に帰って、何て説明しましょうか。


「えぇっ? またぁ?」「早くしろっ」「いてっ」「じゃぁ俺が」

 この展開はさっきも見た。しかし乗り掛かっているペンギンの足を、ペチンと叩いたのは乗られ役の琴美監督である。


「おじいちゃんには用が無いのっ! 私が求めているのは、こっちの『戦艦大和』だからっ! あれっ? ホラ大和ォッ元気出せっ!」

 昔の銭湯シーンにしては過激。気分はいつまでも子供か?

「今は呉に回航中っ!」「じゃぁここは、やっぱり俺の『金剛』で」

 寧ろ逆効果だった。逃げのパパに早くテストを進めたいペンギン。

 二人の間で世代を超えたせめぎ合いが始まるが、やはり『決定権』があるのは琴美監督である。指先チョップで『自称金剛』を直撃だ。


「いっ!」「ほらパパ、早くしなさいよぉ。待たせんじゃないよぉ」

 飛び跳ねて行ったペンギンを右手で払いながら、その手で手招き。

「だって娘だしぃ」「何、娘とは仕事『やれない』って言うのぉ?」

「仕事ってぇ」「もっと自分の仕事に『誇り』を持ちなさいよっ!」

 正論をぶつけられてしまって、パパとして返す言葉も無い。


「だってぇ」「お母さんの『若い頃』って思えば、行けるっしょ?」

「いや、お母さん若いときの方がもっと可愛かっtいてぇぇぇっ!」

 右足の蹴りが真下から、まるで魚雷のように突き刺さっていた。

「回航中だって遠慮しねぇんだからなっ! ビシっとやりぃやっ!」

「はい……」「信濃みたいになりてぇのかっ!」「すいません……」

 今の例え。実は『パパ以外』には判っていない。

 ついうっかり口にしてしまった『琴美のミス』なのだが、それに気が付くのはもっと後の話だ。

 今のパパは心も体も傷つき、うな垂れながら琴美監督に覆いかぶさる。すると直ぐに試験が始まった。内容は単純である。

 一部始終を、渋い顔で眺めていたイーグルは思わず溜息だ。

『これも後で逝っとかないとなぁ』と思いながらも画面を操作する。


「ハイ。イッてぇ」「イックゥゥゥッ!」「『FALSE』です」

 今度の試験は『映像と感情のコラボ』で、最新AIの機能試験だ。

「監督。今のは『FALSE』です」「判ってるって。まったくぅ」

 感極まった『最高の場面』に於いて、『最高の演出』をするために付け加えられた機能である。カメラで捉えた表情から『ガチでイッた』を検知すると、特別な映像と音楽が奏でられる感動演出だ。

 イーグルが渋い顔で見つめている画面には、琴美監督渾身の『堪らん表情』が大写しとなっていた。判定された瞬間の止め絵だ。

 しかし大きく『FALSE』の文字が重ねられている。


「七秒待って。今、本気出すから。フゥゥゥッ。イメージイメージ」

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