海底パイプライン(七十一)
「こんな感じでよろしいでしょうか?」「んん? どれぇ。あぁぁ」
琴美監督に見せた画像は、まだ若干『暗め』である。渋い顔。
すると、他のカメラのチェックをしているペンギンに声を掛ける。
「おじいちゃん、トップカメラの調整行けるぅ?」「あぁん?」
仕事中に後ろから話し掛けられて『もしかして、俺?』な感じで振り返った。会社で『パパ』と呼ぶ奴は居ても、『おじいちゃん』と呼ぶ奴はいない。が、監督の顔を見て『役柄』を思い出す。
「ペンギンじいちゃん、この明るさでピンと合わせ行けるかな?」
「あぁ監督。露光OKですよぉ」「んじゃ行きますかぁ」「はぁい」
ペンギンが画面を覗き込んだ。パパが『監督に見せている画像』と同じで、かつ『調整機能』が表示されている。
琴美がスカートの裾に両手を掛けて、パパが持っている画面に映る自分のスカートをジッと見つめている。ミリ秒単位の時間経過が右下に表示されているのだが、ゼロ秒の瞬間を見計らっていた。
『バッ!』「はいっ! Gスポット!」「ピント合わせ完了。正常」
自分のスカートを捲ると、肌とほぼ同じ色の下着が現れていた。
中央に黒で『縦長の菱形』が描かれており中央に『G』の文字が。
それを天井に設置されたトップカメラが、8K画質で映し出す。
「幾つ?」「カンマファイブ」「ちょっと遅くないかね?」「んー」
ピント合わせは基本『オート』である。初回はレンズの位置が『保護位置』にあったためか、『0.5秒』も掛かってしまっていた。
ピント合わせの機能としては、このままでも問題無さげ。だが、琴美監督は首を横に振った。やはり性能も大事。納得行く訳が無い。
一旦スカートを下げて再テストだ。ペンギンも同意して頷く。
「リトライ。レディー?」「OK」「GO! Gスポォォッツッ!」
「OK。カンマスリー」「規定値に入って来たね。下2は?」
チェックリストには『0.25±0.14秒以内』とある。
「セブン。カンマ・スリーセブン」「OK。リトラァイ。ラストォ」
どうやら『0.37秒はギリOK』らしい。ここは納得行くまで。
「サー。エニタァイム」「レディィ。GO! Gスポォォッツッ!」
「OK。カンマ・ツーファァイブッ!」「GJ。はい。パパ退いて」
三回目は『通常使用時』と言えるだろう。規定値内の数値が出て安心したのか、性能試験を見守っていたイーグルも頷く。
「映像、大きいので見せて」「今出ます。こちら三回目」「うん」
「二回目」「良さそうね」「初回」「あぁ、ピントは大丈夫そうね」
「これなら産毛の一本まで、クッキリ映りますよ」「最大ズームに」
「はい」『ビヨーン』「こちらです」「あぁ、良い感じだね。OK」
スクリーンで大写しになった『G』を、ペンギンとイーグル、そして琴美監督が覗き込む。するとさっき見えていた『Gの文字』は、更に小さな『G』の文字から構成されていると、判るではないか。
確かにこれなら『汁の一滴』から『産毛の根毛』まで、バッチリ捉えられるに違いない。お客様の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
「イーグルおじちゃん『三番の根元にあるの』って、ピントOK?」
「はい監督ぅ。あれは『マクロ』なので、バッチリ写ってますよぉ」
花の『雌しべ』をドアップで撮影出来る『マクロレンズ』仕様だ。
「どれぇ?」「ほらぁ」「本当だ。あの近距離で良く映ってるわぁ」
「でしょぉ?」「こっちも、かなり大きくしても、大丈夫そうねぇ」
「ココ『マクロじゃなきゃダメ』って言ったの俺っ」「さっすがぁ」




