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海底パイプライン(六十九)

「えっ? でも、今『現場監督』って、言ってませんでしたか?」

「はいっ! バッチリ研修してから来ましたので大丈夫ですっ!」

 右手を真っ直ぐに上げて、にこやかに答える琴美。勿論初現場。

 手癖なのだろうか。露わになってもいないのに、脇の下に左手を添えている。何があったかは知らないが、癖とは恐ろしいものだ。


「じゃぁ、早速作業に入らせて頂きますね?」「はいお願いします」

 しかし、全員がニコニコ笑っているだけで誰も動かない。

「現場はどちらですか? あっち?」「あっ、こちらです。どうぞ」

 琴美に言われて、朱美もやっと気が付いた。

 確かに『この面子』が、勝手に家の中をウロウロされても困る。いや『困る』なんて、そんなもんでは決して済まない。とても気持ち悪くて、徹には悪いが、絶対に住んでなんていられなくなる。


「失礼します」「お邪魔します」「よろしくお願いします」

 朱美の後に琴美、ペンギン、イーグル、パパと一列に並んでいる。

 琴美はニコニコして前を向いて歩いているが、朱美は心配で仕方がない。渋い顔で振り返りながら、『変なこと』をしていないか、全員が滞りなく、後を付いて来ているかを確認している。


『電気配線は図面通りか?』『今の所』『ノイズの漏れ出し無し』

 実際辺りを見回しては、ヒソヒソ何か喋り続けている。

 良く聞こえない。しかし目で追っているのは、随所に設置された『コンセント』や『電気のスイッチ』の類ばかりだ。

 それだけでなく、照明もそう。間接照明の場所は、特に念入りにチェックしているではないか。奴らが帰ったら、『何か仕込まれていないか』を、徹底的かつ重点的にチェックする必要があるだろう。


「まだ工事中の箇所もありますが、どこも触らないで下さい!」

「いやアースの処理が気になって。例えばコレね」「結構ですっ!」

「埋め込みの間接照明にLEDは熱がですねぇ」「触らないでっ!」

「このLANの口『CAT6』ですよ?」「わぁざぁとぉですっ!」

 先頭から折り返して来て、余計なことをしないよう手を叩き落す。


「変わってんなぁ」「家だったら絶対やらないけど」「ですよねぇ」

 しかし『専門家三人衆』は、どうしても納得出来ないようだ。

 手を叩かれても尚、まだ辺りをキョロキョロと見回している。もし『じゃぁお任せします。好きに直して』なんて言ったなら、そのまま昼夜ぶっ通しで『大工事』に突入してしまいそうな。そんな気配すら漂わせているから怖い。勿論、余計な物が沢山仕掛けられて。


「良いんですっ! 必要だと思ったら、また引っ越しますのでっ!」

「おぉぉ。やっぱ違うわぁ」「流石金持ちぃ」「家はまだローンが」

 残念がってどうする。すると現場監督が血相を変えて戻って来る。


「ちょっとあんた達ぃ、お客様の家で、何勝手なことしてるのっ!」

 腕を振って三人を順番に指さしながら、特大の雷を落とす。

 規定電力以上だ。ブレーカーが無ければ、全家電が吹っ飛びそうな勢いである。怒りの表情を三人の顔、一人づつに近付けて威嚇。

『フンッ』震えあがったのを確認してからの鼻息が荒い。更に『ビクン』となって『反省』を示した所で大きく頷く。

 ニッコリ笑って『お客様』の方に振り向いた。


「どうもすいません。後で良く逝っときますので」「お願いします」

 親指で首を横に掻っ捌いて見せると『本当よぉ』と大きく頷いた。

 現場は二重扉の奥か。見れば二重扉は工事中。広い浴室に到着だ。

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