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海底パイプライン(六十四)

「いや、あのぉ、皆さん? ちょっと、あの待って貰えますかぁ?」

 止めに入ったのが遅かった。何しろここは『情報処理課』である。

 全てのタイムスケジュールが『ミリ秒単位』で動いているのだ。

「予約入れろぉぉっ!」「もうやってまぁす」「参加十五人ですぅ」

 どもっている間に、飲み会の手配なんて直ぐに終わってしまう。


「ねぇねぇ。昨日頼んどいた『エビデンス確認』って終わったぁ?」

 琴坂課長は歩きながら課員一人一人に声を掛け始めた。

「部長ぉ、行きますよね?」「いやぁ、俺が行くと、悪いだろぉ?」

 軽く手を振って断る。しかし既に、琴坂課長以下十四名と高田部長を加えた十五名で、予約を済ませたらしい。幹事は困り顔だ。


「そんなことないっす。なぁ?」「部長の方が面白いのでOKです」

 この上司にしてこの部下とは良く言ったもので、性格も行動様式も良く似て来るらしい。誰かさんに。


「ちょっと聞いてる? 今度の検査で『不合格』はマズイからね?」

「だとしてもほら一応コイツ『主催者』だからさぁ。悪いじゃん?」

「あぁ、忘れてた」「流石部長ぉ。ちゃんと覚えてるわぁ」

「私は消化担当で、品質向上担当じゃないです!」「あっ、ごめん」

「気ぃ使ってますねぇ」「主任も仕事以外で、それ位なぁ……」

 一体『誰のお陰で』というのは忘却の彼方のようだ。何故なら『仕様書に記載されいないこと』だから。『すき焼きが食える』という事実だけが確定していて、今はそれに向かって邁進するだけに。


「そりゃお前俺も肩書が一応『部長様』だからさぁ、折角部下が取り仕切って宴会やっている所に、ズケズケ上司面して行ってもなぁ」

 しかし高田部長だけは違う。『人的資源の調整』が主業務だ。

 飲み会やるのは良いとして、明日の朝、何人が二日酔いで来なくなるかを予想し、遅れた仕事の責任をどうやって主任、いや琴坂課長に押し付けるかを考え始めていた。次の部長会で『スケジュール通りです』と言わざるを得ない状況に、追い込まれているのだから。


「そこが部長と主任の違いって奴かぁ……」「馬鹿、聞こえるぞ?」

「検査で二回連続不合格は、次回指摘個所の三十倍返しだからね?」

 専門家でもない品質保証部が設計書をパッと見て『不良を一つ発見出来た』と言うことは、専門家が見たらその三十倍は見つかるだろ? というのが品質保証部の言い分だ。まぁ、検査で不良を出し続けるようだと、それもごもっともでございます。


「大丈夫ですってぇ」「確かに。仕様の話しか聞いてないからなぁ」

「あと今日中に終わらせないと品質保証部から、怒られるからね?」

「あっ、じゃぁ『ゲスト』ってことにしますかぁ!」「それだっ!」

「予約はしたけど、あくまでも『たまたま居合わせた』と」「ハイ」

「検査以前に、この不良を何とかしないと」「どれぇ?」「百八番」

「あぁ、イイね。じゃぁ、乾杯だけさせて貰って、それで帰るか!」

「有難うございますっ! 参加費一万円戴きます!」「一旦ヨロォ」

 肩を掴まれて振り返ったのは、やっぱり琴坂課長だ。

「このエラーは、はいぃ? 何か言いましたぁ?」「言いましたぁ」

 今のは『答えたこと』になっているのかは疑問だが、二人はもう次の行動に移っていた。居合わせた者は『これがツーカーか』と思うことだろう。実際琴坂課長は、一を聞いて十五を返す男である。

「朱美ちゃぁん」「飲み放題付く? やったぁはい。何でしょう?」

「唇に『海苔』付いてるよ? 何? 旦那って、海苔巻いてんの?」

 そんなことを突然言われたら、思わず口を隠してしまうだろう。

「巻いてませんっ!」「いや別に『何処に』って言ってないジャン」

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