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海底パイプライン(六十三)

 目がマジだ。脅しじゃない。このままだと本当に殺される。

「信じてます信じてます! 心の底から信じてます。ハイ信じたぁ」

 高田部長には若い頃『従軍していた経歴』があり、函館の最前線に投入されていたことは承知している。何があったのかは知らない。

 酒の席であっても、本人が周囲にひけらかしたりしないからだ。

 噂を確認しようと話を切り出すと、肩を組まれた上で耳元へそっと囁かれる。『お前、死にたいのか?』と。


 そう。丁度こんな感じで。

「今更おせぇよ。お前『特別ボーナス』出すっての信じてないって」

 秘密の『特別ボーナス』とは『甘納豆』のことである。大好物だ。


「えっ、だから『信じてます』って、言ってるじゃないですかぁ」

 あくまでも首は『絞めた振り』である。それなのに青ざめるとは。

 実はもう、甘党の妻に『今度の特別ボーナス一袋あげる』と約束してしまっていた。だって『いつもの三倍(三袋)』なのだから。


「どうすっかなぁ?」「お願いしますよ。ちゃんと仕上げますから」

 ここまで必死なのは、それが『丹波の黒豆』で作った奴だから。

 五百グラム二千五百円。甘納豆としては『高い部類』に入ろうか。

 いやまぁ東京で、いや関東では、滅多に見ないと言えば見ない。だから貴重と言えば、確かに貴重なのだが……。通販でも買える。


「良いのが入ったんだよなぁ?」「アフターケアーもバッチリ!」

 しかしそこは高田部長も『一流のハッカー』として今だ健在。

 琴坂課長が使用する回線に割り込み、あらゆる販売網へのアクセスを常に監視していて、絶対に購入させないようにしているのだ。


「おいお前ら聞けっ! 今コイツが、俺のことを信じられないって」

 指示があってから、初めて仕事の手を止め、注目する一同。

 部長の訓練が実に行き届いていて、統率の執れた良い動きだ。


「聞かなくてイイッ! 特別ボーナスが出るとか、全然っ!」

 すると全員がしっかりと耳を塞ぐ。実はこれも訓練通りだ。

 いや、意外とそうでもない。部長と課長から『相反する命令』が出た場合、『どちらの指示を聞けば良いか』を良く理解してのこと。

 念のためだが、普段から『玩具になっている』と言う訳ではない。


 目を逸らして固まっている琴坂課長を見て、全員が考え始めた。

 いつもと違い、続けて『ワーワー』と何も言って来ない理由を。

 静まり返った中、一人、また一人と、耳からゆっくりと手を離し始めた。隣同士で『今聞いたか?』『聞いた聞いた』が始まり出す。


「主任! 『特別ボーナス』って、何ですかぁ?」「俺達にはぁ?」

 会社の役職に『主任』は存在するが、今の情報処理課に『主任』は不在である。誰も彼もが『同列視されたくない』と思っている。

 しかし、課長に昇進した今も主任と呼ぶのは、侮蔑かと言えばそれは全く当てはまらない。寧ろ『畏敬の念』を抱いてのこと。

 長らく『情報処理課に琴坂主任在り』を知らしめていた事実が、その全てを物語っている。本人を前にして、仕方なく正式な役職名『主任』と呼ばせて貰っているが、例えば酒の席など『実名を出すのが憚れる場所』では、NJS全員が『超主任』で通じる程なのだ。


「ちっ。全員に『すき焼き奢ってやりたい』って言われてなぁ……」

 凄く悔しそうな顔で『ネタばらし』をしたのは高田部長である。

 全員琴坂課長に注目。顔は確かに『何で言うかなぁ』ではないか。

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