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海底パイプライン(六十二)

「あぁ。武ちゃん、凄く喜んでくれてなぁ」「ホントですかぁ?」

 高田部長がニッコリ笑って話すときは、絶対に怪しい。

 決して真に受けず、本当かどうかを疑った方が身のためだ。琴坂課長は過去にそれを、嫌と言う程味わされた。誰よりも多目に。


 すると高田部長が机上に新聞紙を置き、琴坂課長の手を両手で握りしめたではないか。『何だ?』と思って顔を見れば泣顔だ。


『有難うございます。絶対に忘れません』「てなぁ?」「えぇっ!」

 一瞬だが迫真の演技である。声も宮園の声に似せていた。

 今の情報処理課で、宮園が『どんな奴だったか』を知らない者も居る。しかし少なくとも『高田部長ではない』ことは明白だ。

 故にどちらも知っている琴坂課長にしてみれば、それは傍から見て『驚きに値する』であろうことも推察出来た。しかし今は、全員がディスプレイに向かって仕事の振りをしつつ、『いつものコントが始まった』と思っている所だ。


 高田部長は琴坂課長が思いの外驚いているのを見て、しっかり騙されていると確信し、涙を拭う。

「思い出しただけで、俺も泣けて来ちまったぜ」「そうですかぁ」

 過去に『高田部長を泣かせてしまった』ことも、実は数知れず。

 部下の尻ぬぐいは上司の仕事とは言え、それは主任時代、課長時代、そして部長に留まっている今でさえも、それが理由に思える。


 自分を守ってくれる上司は、大切にしなければならない。

 仕事が行き詰っているときも、最終的には『あの人に恥を掻かせる訳には行かない』と、全員で思えるかどうかだ。


「奴が『礼を言う』だなんて、ちょっと信じられませんねぇ……」

 残念ながら宮園は、その輪の中に入って来ない奴だった。

 どちらかと言えば『使える奴は使え』みたいなノリ。何だか人を『便利な道具』として扱っているような。

『上司なんて、俺のアイディアを吸い上げているだけじゃないすか』

『いや違うって』『何が違うんすかぁ』『皆で話合ったでしょぉ?』

『最初に言ったの俺っス』『でもそれはぁ、極端過ぎるって。ね?』

『何処がっすかぁ。大体、道具扱いして来たのは向こうっすよぉ?』

 優秀な奴だったが、仕様通りに作ってくれないのが玉に瑕だ。


「きっと武ちゃんも『改心』したんだよ」「そぉでぇすぅかねぇ?」

 疑っていると、笑っていた高田部長の顔が突然真顔になる。

 机上に置いてあった新聞紙を握り締めると、首を横に振りながら琴坂課長の肩をポンポンと叩いた。


「お前の『良い所』は、どんな()でも『信じれること』だ。判るな」

 高田部長が真剣な顔で話すときは、絶対に怪しい。

「えぇ? それは『血も涙もない高田孝雄って()』も含みますぅ?」

「当たりっておまっ俺を何だと、どっちも有るに決まってるだろっ」

『パァァン』と机をぶっ叩いているが、琴坂課長は冷静に問う。


「いつからですか?」「これからだよ!」「じゃぁ今は無いんじゃ」

 言うが早いか、今度は新聞紙を放り投げていた。一歩歩み寄る。

「お前から両方貰おうじゃないかっ! ホラ寄越せぇ。オラァッ!」

 琴坂課長の首を本気で締めに掛かる。首をタップしていても誰も助けようとしないのは、それも含めて『いつものこと』だからだ。


「ウヘェ、俺も無いです無いです。信じて下さい!」「何だとぉ?」

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