海底パイプライン(六十一)
始業から一時間余り経過したが、今日の職場は平和である。
朱美はデスクで朝食の『おむすび』と『海苔巻き』を急いで食べて、仕事に取り掛かっていた。今日はエビデンスのチェックだ。
チェックリストに『こうなっていたら』『ああなる』というのがズラッと並んでいて、一つ一つのケースに、ユニークとなる『チェックID』が割り振られている。
だから『終わりました!』となっている分について、実行結果がその通りになっているかを全部確認して行く作業だ。
「山田さん!」「何でしょう?」「ちょっと来て」「はーい」
画面を指さして『ドジっ子山田』を呼び寄せる。
ニッコリ笑っていやがるが、チェックしている側は全く笑えない。
条件があり過ぎて既に一画面には入り切っていない。そんな縦長のチェックリストを上から下へ、条件に付けられた丸印を辿る。
「この頁の四十五番以降って、もしかして一個づつズレてない?」
あるあるだが割と面倒なケースである。
「どれぇ?」「条件が違うでしょ?」「うそぉ。あっ、ホントだぁ」
『ホントだ』じゃねぇ。と声を大にして言いたい。グッと堪えた。
ドジっ子山田とは良く言ったもので、その通り『山田が作ったエビデンス』は、全く信用に値しないのだ。完全に二度手間である。
「エビデンスの方を、一個づつずらしておいて下さい」「……」
何だか笑いを堪えているのだが、それもムカつく。
山田は朱美より後輩の癖に、その先輩を扱き使うようなことを平気で言って来る。全く。この情報処理課はどうなっているのか。
それは隣にいる『琴坂課長』が、ビシっと言わないからだ。
「ジャーンッ! 皆ぁ、おっはよぉ!」「おはようございまーす」
派手に現れたのは高田部長だ。今日も意味無くご機嫌である。
手にしているのは新聞で『読み終わった』のか知らないが、もう棒状に丸めていた。それで『ゴルフの練習』をしたり、『頭をコツン』とやったりする、何とも便利な道具に早変わり。
『ポンポン』「俺が居ないからってさぼってないだろうなぁ?」
早速『行使した』のは、琴坂課長である。しかしやられ慣れているのか『全くの無視』で通す。高田部長だって『キーボードをひたすら叩き続けている姿』を見れば、まるで『期限を過ぎた』と必死になっていると理解出来るはずだ。
あれ? 信用していない? ゲームをしているかも、だって?
ヒョイと画面を覗き込むと、今度は『パァァンッ!』と後頭部を叩いたではないか。すると流石に琴坂課長は手を止める。
「何ですかっ! 部長が押し付けた仕事をやってんでしょうがっ!」
そう。確かにそれは完全なる『割込作業』である。
「今のは『挨拶が無かった』からだ」「あぁ、すいません」
「良い仕事は良い挨拶からって、いつも言ってるだろう?」
『ポンポン』「いやコレ、イイっす。おはようございます」
「何だよ。遠慮すんなぁ?」『ポンポン』「だからイイッスって」
「これはな『仕事が上手く行きますように』と、俺の『祈り』だ」
「嘘嘘。絶・対・『ナンマイダー』ですよねぇ?」「ちぃがうよぉ」
「俺『徹夜で寝ている奴』に、それやってるの見ましたからねっ!」
徹夜作業時『食い物を買って来てくれる』のだけは有難い。別の言い方をすれば、寧ろそれしか有難くない。仕事は割込ませるし。
「そうだ。お前の作ったプロト凄く好評だったぞ?」「マジすか!」




