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海底パイプライン(六十)

「えぇぇ。それは残念です」「まっ、そう言うことだから。頑張れ」

 ポンと肩を叩いて、訓練参加はあっさりと断られてしまった。

 今度は棺桶の方をトントンと叩いて、中に閉じ込められた宮園に話し掛ける。説明を簡略化するために『棺桶』と言っているが、実際は『覗き窓』が無いだけの、白木の一番安いタイプだ。


「大人しくしてろよぉ。ちゃんと届けてくれると思うからぁ」

『テメェはぜってぇ許さねぇっ!』「おぉおぉ。元気良いじゃん」

 蓋から『ゴツンゴツン』と二度聞こえた。頭突きでもしているのだろう。しかし蓋が開く様子はない。


「水没しないように、テープでキッチリ蓋した方が良いですかね?」

『ビィィッ』とテープを引き出してから聞くことだろうか。

「そうだなぁ。折角の『賞品』なんだし、そうするかぁ」「はいっ」

「良し。蓋押さえとくわ。ほれそっちも」「はい」「はい」「はい」

 棺桶の周りで足音が響く。中から『ゴツン』と『いてぇ』が。


『馬鹿ヤメロッ! 息出来なくなっちまうだろうがっ! オイッ!』

 中から相当必死な声がしてきて、結局『封印』は口だけに終わる。

「よぉぉし。しっかり押さえてろぉ。もう一周回しとくかぁ!」

 再び『ビィィッ』と音だけ。本気で封印したら本当に窒息する。

「了解です。班長ぉ、早く積み込んで飯食いに行きましょうよぉ」

『ふざけんなっ! お前らの顔、覚えたからなっ! 覚えてろよ!』

「俺、山田でーす」「俺佐藤でーす」「田中っす」「加藤でぇっす」

「中山っす」「二人目の佐藤でーす」「じゃぁ三人目の佐藤でーす」

『お前は違うだろっ! このクソ高田っ!』「あ、バレた」

「いやぁ、流石は元部下。上司の声って、ちゃんと判るんですねぇ」

「らしいなぁ。あぁ、怖い怖い。良かったぁ硫黄島行きになって!」

 全然怖そうな感じはしないのだが。何を恐れているのか不明。


『クソッ! どいつもこいつもふざけやがってっ! 今に見てろぉ』

 再び『ゴツン』と。しかし一回だけ。小さく『イテェ』と聞こえ。

 すると高田部長イーグルが再び蓋をトントンと叩く。

「向こうでは『衣食住』がセットで付いて来るんだから、ちゃんと上司の言うことを聞いて、達者で元気に暮らすんだぞ?」

「自分が言うのもなんですが『住めば都』って言いますし」

 制服の男が補足したのをきっかけに、男達も言葉を添える。


「暖かくて良い所だぞぉ」「いや寧ろ暑過ぎる位だろ」「シィィッ」

『ちゃんと聞こえてるぞっ!』「良し良し。まだ生きてるなぁ」

「無いのは女っ気」「おばちゃんしかいない」「娯楽はサバゲー」

「結構『本格派』な奴なぁ」「きっと三カ月も頑張れば痩せるっ」

「その前に、死んじまうかもしれないけどなぁ」「それもナイショ」

『うるせぇっ! 死んでも百キロは維持してやるっ!』「おぉ!」

「筋金入りの『デブ』なんだなぁ」「逆に感心するわぁ」「あぁ」

 感心しきりだ。確かに『納棺』された状態で、良くもまぁ悪態を貫けるものである。宮園のメンタルは、体と違って強靭なのかも。


「そうだ。ごめん。一つ、言い忘れていたことがあったぁ」

 高田部長イーグルが優しく蓋を擦りながら謝っている。

 返事は無いが、一同『次の一言』に注目していることは確か。

「硫黄島ねぇ、実は『ネット環境』が無いんだわぁ。ごめんねぇ」

 確かに『個人用』の回線は存在しない。あるのは赤電話だけだ。

『何にも出来ねぇじゃねぇかっ! おい出せよっ、死んじまう!』

「じゃ、俺、そろそろ現場に戻るわ。後よろしくねぇ」「はっ!」

「お任せ下さい」『待てコラァッ』「お疲れ様です」「バイビィ」

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