表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1247/1531

海底パイプライン(五十九)

「一応コレ『賞品』なんですよ」「えっ? 何の?」「訓練のです」

 制服の男は廊下の棺桶を指して笑っているが。サッパリ判らぬ。

「離せっ! 硫黄島なんかに行かねぇっ!」「うるせぇなぁ」

「もう『ピッチピチ』じゃねぇか」「出したら四角くなりそうだな」

 高田部長イーグルはマジで首を傾げている。見かねて答えを。

「陸軍との合同訓練ですよ」「あぁもうそんな季節かぁ。へぇぇ」

 ニンマリと笑った所を見ると納得のご様子。これが今年のかぁ。


 硫黄島に常駐する陸軍と吉野財閥自衛隊で、ガチガチの戦闘訓練を実施しているのだ。訓練は司令部を占拠するまで続けられる。

 攻め方と守り方に別れ、本格的に『上陸する所』から開始と。

「今年はどっちにしたの?」「守る方です。くじ引きで外れまして」

 基本的に『ほぼ同数』なため『攻め有利』な訓練である。


「あっそぉっ! それは大変だぁ。おい、お前ら頑張れよ?」

「うっす!」「頑張りますっ」「今年こそ勝ちます!」「気合いだ」

『ドンドンドンッ』『開けろぉぉぉっ!』「静かにしろっ!」

 特別顧問として戦闘訓練を指導することもしばしば。だから皆『顔なじみの部下』でもある。しかし高田部長イーグルの話しっぷりから、自身は今回の硫黄島戦闘訓練に不参加らしい。


「イーグルも参加して下さいよぉ。陸軍の奴ら、酷いんですよぉ」

「そうですよぉ」「去年も良い所でられました。なぁ」

「後ろから忍び寄られてグサッて」「あぁっ!」「こんな感じで」

「何ぃ? あいつらズルしてくるのぉ? 楽しそうじゃん!」

 突然目が輝く。『後ろから刺す』だなんて、何て魅力的な響き。

 すると『やっぱり参加して下さいよ』な切実な目になっている。


「聞いて下さいよぉ。あいつらピンチになると、後詰めに『空挺』飛ばしてくるんですよぉ? それでもう、一気に形勢逆転して……」

「何で習志野から出張って来るんだよっ! 前提が違ぇよなぁ?」

 笑い飛ばしているが、高田部長イーグルもパラシュート降下してくる空挺団と一戦交えたことがある。大分昔だが。

「何でなんだかなぁ」「毎年毎年毎年毎年」「ブーン。ホワワァ」

 陸軍で最強と名高い部隊であるからにして、卑怯と言えば卑怯だ。

 きっと『お前ら南国のバカンスに行くぞっ!』とか言われて、ホイホイ出張って来るに違いないのだ。で、好き放題に暴れると。


「去年も一昨年もだぜぇ。なぁ」「俺も後ろから刺されましたよ」

 傷跡がうずくのか『刺された場所』を示しながら、苦笑いだ。

「もうね、奴ら『空の神兵』掻き鳴らしながら降下して来るんでぇ」

 すると高田部長イーグルはパッと発言者の顔を指し示す。


「俺も聞いた聞いた! それ、奴らの『テーマソング』だもんなぁ」

「そう。だから直ぐ『来たっ』て判るんですけど、なぁ」「えぇ」

 渋い顔だ。高田部長イーグルは口を尖らせる。


「パラシュート降下中に、高射砲で撃ち落としちゃえば良いじゃん」

「あれば撃ってますよぉ。でも銃は『訓練用』じゃないですかぁ」

「あぁ。そうだったなぁ。流石に実弾じゃぁ、死んじゃうからなぁ」

 地上からの攻撃が無いパラシュート降下なんて、確かに南国のバカンスに他ならない。しかし、どうにかならないものだろうか。


「ブーメランだっけ? 去年当たったの」「おぉ。やるじゃん」

 実弾は禁止となっているが、ブーメランは禁止とは書いていない。

「でも奴ら、パラシュート破れても何か無意味でぇ」「はぁあぁ?」

 流石の高田部長イーグルにも、その理論は良く判らない。

 どうやら空挺団にしか出来ない『特殊な訓練』があるようだ。


「海面に着水したり砂浜に着地して、普通に攻めて来るんですよぉ」

「何だ化物かぁ?」「いやイーグルに言われたくないです。なぁ?」

 高田部長イーグルも認める『化物軍団』であれば、一般兵でどうにかなる相手でもないのであろう。全員が苦笑いだ。


「そうですよ。奴ら『作戦名』を何て言っているかご存じですか?」

「硫黄島上陸作戦とか?」「違いますよぉ」「それ、普通ですぅ」

 突然の質問に高田部長イーグルは首を傾げる。それ以外に何があると言うのか。サッパリ判らずに反対側へ首を傾げた。

「じゃぁ何?」「本当にご存じ無いのですか?」「うん。知らねぇ」

 隊員同士が顔を見合わせる。やはり発言は制服の男だ。


「捕虜に吐かせたんですけど『ペンギン掃討作戦』って言うんです」

「何だ! 俺じゃないじゃん! あぁ良かったぁ」「いやいや……」

 本部長ペンギンは相当『恨み』を買っているようだ。しかし本人を目の前にして口には出せないが、実は副題があった。

 作戦名『イーグル・マジ・コロス』略して『EMK』である。


 特別顧問の『ペンギン』と『イーグル』が合同訓練に参加したのは随分昔のことだ。その年まで臨場感を出すため『ナイフは本物』というルールだった。既に銃の方は『訓練用』である。

 空挺団が上陸後、指令室の建屋にまで順調に侵攻したものの、そこで二十人もの死傷者を出し、訓練は途中で中止となってしまった。

 以降ナイフも『訓練用』になってしまい、特別顧問は不参加だ。


「今年負けたら『ボーナス無し』だってぇ」「助けて下さい!」

「いやぁ俺さぁ、訓練とか苦手だからさぁ。ついなぁ? 判るぅ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ