海底パイプライン(五十四)
「他人が装備しているのを、見せて貰ったことなら……。ある」
凄く言い辛そうにだ。今更『嘘』が通用するとも思えないのだが。
「それは違いますよね?」「何で判るんだよっ!」
「だって、一度も『パーティー』を組んだこと、有りませんよね?」
「何を言ってるんだっ! お、お、俺だって、それ位、あるよ……」
何故か声が絞れて行く。最後は良く聞こえなかった。
「一応確認ですが『自分のキャラ同士』ってのはノーカンですよ?」
それはPCとアカウントを『二つづつ用意』し、同時にログインする。そして全て一人で操作する、マニア向けの高等テクニックだ。
「……」「自分のキャラだけで『クラン結成』t」「判ったよっ!」
キャラ名の横に表示される『クランマーク』が無いキャラは、『中身が無い自動運転キャラ』=『インチキ中』と判断される。そうなるとレベルが高い程嫌悪の対象。発見次第通報までされてしまう。
だから友達が居なくて一人でプレイしていても、『ソロクラン』を設立して『中身が居ます』をアピールする必要があるのだ。
それは運営に人工知能が導入され、監視が厳しくなった今でも『文化』として残っている。ゲームの世界も意外と世知辛いものだ。
「買って眺めてましたっ! 嘘ついてどうもすいませんでしたっ!」
「いえいえ。お買い上げ、誠に有難うございます」「クソが……」
この短時間で高田部長が再び頭を下げたのに、宮園は『プイッ』と横を向き、見向きもしないではないか。
遅れませながら『スキン』について説明すると、『ゲーム結果に影響しない見た目の類』と言えるだろう。主に『衣装』とか。
例えば『人気の狩場』があったとする。するとそこには『最適解となる装備』を身に付けたキャラだけが、大挙して集まってしまうことになる。ソロで籠ることになると、常に同じ格好で目の前に。
故に、実装備とは関係無く『見た目だけ』を変更するものだ。
「て言うか、何でお前が『有難う』とか言ってんだよ!」「はぁ?」
著者も今気が付いたのだが、今は『不正スキンを購入したか』を問われているのであって、そこに何故『摘発する側のNJS』が出て来て、更には『お礼』まで言っているんだ、と宮園は言っている。
ちょっと説明が難しかったか。兎に角、指摘された高田部長も首を捻って考え込んでしまっている。
「いや、その『不正サイト』って『家のサイト』だからさぁ」
口を尖らして言うではないか。どうやら『禁止ツール』や『不正スキン』を販売している『不正サイト』は、名前に『NJS』の文字は無いものの『NJS系列』ではあるようだ。
「マジかっ!」「マジマジ。通称『馬鹿発見機』と言ってねぇ?」
ニッコリ笑って宮園を指さしている。指を前後に揺らしながら。
「そんなの『インチキ』じゃねぇかっ! 良いのかよっ!」
気持ちは判らんでもない。何なら『おとり捜査』そのものである。
「良いんだよ俺が決めたんだ。大体『不正をやる輩』なんてのはな、『簡単な方法がある』って噂を流しただけで、すぅぐ飛び付くんだ」
今度は『呆れ顔』になっている。勿論『宮園』を指さしたまま。
「それで『当たり』を付けておいてな? 何かあったら一斉検挙よ」
したり顔で言われても、宮園は別に『一斉検挙』で捕まった訳ではない。NJS全社員の人事情報を、外部に漏らしただけだ。
「さぁて。『規約違反』をしたお客様にはぁ」「待ってくれぇっ!」




