海底パイプライン(五十二)
「検証結果によると『こうなっている』と推測されましてぇ」
『タンッ!』と打鍵音が聞こえると『想定図』に入れ替わった。
すると『前を押さえている手』はそのままに、スカートだけが『膝上』へと短くなっている。色は『白』そのままだ。
「色までは判らなくてですねぇ、お客様に是非ご確認頂きたくてぇ」
「知らねぇよっ!」「おや。覚えていらっしゃらないと。本当に?」
「良く聞けっ! 『知らねぇ』って言ってんだろうがっ!」「あぁ」
誘導尋問でもするつもりだったか。口をへの字にして黙り込む。
すると『検証画面』が消える。宮園は『ホッ』と一息だ。
が、それも束の間。過去ログの表示へと切り替わっただけ。
「確かに『三年前のこと』ですから、覚えていないのも当然ですね」
ログの一行を選択した所で動きが止まった。『ERR0C7』だ。
「はぁ? そんな前ぇ?」「やっぱり、お客様もそう思いますぅ?」
右手の人差し指を立て、顎から右に振っている。何かムカつく。
「だから知らねぇって!」「あぁ、良いんです良いんですお客様ぁ」
今度は両手を前でヒラヒラさせながら、笑顔で窘められる。
「ちっ」「記録はちゃぁんと全部、ありますからぁ」「暇人め……」
両手の人差し指をグルリと回し、揃えてから何度もノートPCを指し示す。どうやら『高田部長の動き』には見ている者を『不愉快にさせる効果』があるようだ。
もしかして、長年の研究の成果か? それともただの性格か。
「同じように確認した所、これが二年半前の状態です」『タンッ!』
すると今度は、『スーパーミニ』が映し出されたではないか。
こうなると、前を手で押さえていなければ、パンツまで見えてしまうに違いない。随分とけしからん映像なのに、高田部長は冷静だ。にこやかに、丁寧に宮園に問う。
「お客様ぁ『お色』は、何色でしたでしょうかねぇ?」「知らねぇ」
ボソッと呟くだけ。目も逸らしてしまった。すると『ダメかぁ』な顔になった高田部長が、PCを操作する。
「全体的に『こぉんな感じ』なんですけどぉ、覚えてますぅ?」
すると宮園は、驚きの表情でもってディスプレイを見つめていた。
画面に表示された『宮園朱美』が、『腰を軸』としてグルグル回転し始めたからだ。最初は水平に。次は縦回転。今度は逆回り……。
「覚えて、じゃねぇっ! 知らねぇっ! 俺は何も知らねぇっ!」
「あらぁ? もうちょっと『アップ』にしないとダメですかねぇ?」
すると言葉通り『腰回り』にズームイン。大体は『白スカート』が占めているのだが、チラチラ見える色違いは『太もも』であろう。
「良いですねぇ。どうでしょうお客様ぁ。これで思い出せますぅ?」
「何度言わせるんだっ! 『知らねぇ』って言ってんだろっ!」
一度は言い間違えたものの、今度は『知らない』と言い切ったし、高田部長の様子からどうせバレていないだろう。
確かに高田部長は下唇を前に出して、困った顔のまま固まっている。首を少しだけ左に傾げながら。
「大体、何で『衣装が違う』って判るんだよっ」「と言いますと?」
「それ位の『短い奴』だって、あんだろっ!」「はい。ございます」
「だったら『その衣装』を、着ていたかもしれないじゃないかっ!」
宮園の右手が自由であったなら、ビシっと指さしていただろう。
しかし拘束されていたとしても、相手にはちゃんと通じたようだ。




