海底パイプライン(四十九)
高田部長が準備を進めているのは、ノートパソコンでプレイする『ネットゲーム』のようだ。ディスプレイを増設したのは、それを見易いようにしているため。老眼の始まりか?
違う。宮園の方に向きと角度を調整すると、猿ぐつわを外した。
「俺のキャラじゃねぇかっ!」「あっ、もう判っちゃったぁ?」
宮園が声を上げると、高田部長が笑顔で振り返る。
この大きなディスプレイは、『宮園に見せるため』だった。『元』とは言え、部下にここまでするとは。高田部長と言う男、こう見えてやっぱり『部下思い』だ。
昔から『仏の孝雄』と、自称していただけのことはある。
「お前ん家、丸焼けになって『全てを失った』って思ってたけどさぁ、家の『サーバーの中』に、まだ『こいつ』があったのねぇ」
宮園は嫌な予感しかしない。まさかそこに目を付けるとは。
「どうするんだよっ! 触んじゃねぇよっ! この腐れ野郎がっ」
すると突然画面が切り替わる。『ゲーム画面』ではなく『管理画面』になったではないか。『キャラ一覧』のようだ。
画面上部にある『抽出条件』に、パパッと条件を入れ始める。
「お前ん家が燃えた日からさぁ、『ずっとログインしていない』てのを探してたんだけどさぁ、そうしたら凄く判り易いのが居たの」
『タンッ!』と叩くと、画面に六キャラが現れた。持ち主は全て一緒で、全部のキャラが最高レベルに達している。そうして『過程』を順序だてて説明してから、再びゲーム画面に戻った。
「これさぁ『朱美ちゃん』にそっくりじゃねぇ?」「偶然だよっ!」
「そっかぁ『偶然』かぁ。どれどれぇ『キャラメイク時間』はぁ?」
再び管理画面に戻ると、今度は過去ログを漁り始めた。
「ヤメロよっ! そんな所調べてるんじゃねぇよっ! 変態かっ!」
聞く耳持たずだ。既に見つけたログを眺めて寧ろ感心している。
「おぉスッゲェなぁ『ベース生成』に二百回、微調整に三日とはぁ」
ニッコリ笑って宮園を見た。直ぐ後に『タンッ』と打鍵音がすると、『微調整の試行錯誤経過』が時系列で表示され始める。
正面、後ろ、左右の全身像が画面に。その『顔』『体』のパーツが次々と変更され、段々と『朱美ちゃん』へと変化して行く。
左上には『経過時刻』が表示されているのだが、それが本当に三日経過した所で止まった。これは本人が見ても驚きの出来栄えだ。
「これぇ、本人に教えた方が良い?」「ヤァメェロォヨォォォッ!」
「でもぉ、こんなに『頑張りました』って」「言うんじゃねぇぇ!」
まぁ高田部長なら言うだろう。間違いなく。
「あれあれぇ? お前、苗字『宮園』って」「うるせぇぇぇぇっ!」
それも言うだろう。まぁ『キャラ作成日』が独身時代であるし、『夢も希望も込み』なのは判る。
「そう言われてみると、ちょっと若いなぁ。えぇ?」「……」
「何だ武ちゃん。もしかして『願望込み』にしちゃったぁ?」
下を向いたままで、やはり『答え』はない。あるはずもないのだ。
入社当時の朱美は『ショートカット』だった。それに比べて『宮園朱美』は『セミロング』なのだから。
「最近の朱美ちゃんねぇ、こんな感じにしてるんだよぉ」「えっ!」
目を輝かせ、実に嬉しそうな顔が。しかし直ぐに真顔へと変わる。




