海底パイプライン(四十七)
『ガシャンッ!』「こんなモノを出した所で、誰が喜ぶんだっ!」
お怒りである。タバコを咥えたまま手をパンパンと叩く。
開発者を睨み付けたまま、片足を机の上に持ち上げた。ハイヒールから伸びる、それは見事なふくらはぎ。膝上のタイトスカートがズレ上がって、『でしょうね』というぶっとい太ももが覗く。
一番近い奴なら勇気を振り絞り、スカートを覗き込めば『パンツ』が拝めるであろう体制に。しかし何故か誰もが目を逸らしている。
「ええっ? 顔を上げて良く見ろっ!」
一番近い奴の顎を掴み、無理矢理スカートの中を覗かせる。
果たして彼は今、目を開けているだろうか。それとも息をしているだろうか。どんな香りを嗅いでいるのだろうか。チーン。
「どうだ? 満足させられそうかぁ? えぇ?」「判りませんっ!」
スカートの中から声がする。良かった。どうやら彼は、今の所生きているようだ。すると江口部長は左手を髪に持ち替えて引き離す。
姿勢を低くして、自分の顔をグッと近付けた。ニヤリと笑う。
「じゃぁ『本物』で試してみるか?」「えっ? えっ?」
図らずも『魔法使い』を卒業するチャンス到来か。しかし彼は今、恍惚の表情でオロオロするばかりだ。いや『恍惚』とは何ぞや。
じれったくなったのだろう。髪を引っ張って椅子から立たせる。
「ココにあんだろぉ? 『さっきみたいなの』がよぉ?」「……」
口と鼻から煙が。左手で髪を掴んだままタバコの煙を吹き掛ける。
だが鬼ではない。口では『ココ』と曖昧だが、何処だか判るよう右手で『ポンポン』と叩き示してあげている。勿論笑顔のままで。
江口部長って実は、部下に対し『親切』なのかもしれない。
「何だ。見ても判んねぇなら仕方ねぇよなぁ? あぁん?」「うっ」
問題発言である。彼は『魔法使い』である以前に、実物すら見たことが無かった。それを今『見た』と言われてしまうとは。
ショックで声も出ないのかもしれないが、その理由は江口部長が右手で思いっきり握り締めているから、かも、しれないが。
「何処が『俺のを参考にしました』だ。ホラ吹きがっ」『ガタッ』
きっと江口部長の『御眼鏡』に叶わなかったのだろう。
椅子の上に投げ捨てて座らせ、自分は机から脚を降ろす? と、思っていたら違った。江口部長は右足に力を入れると、そのまま机の上に乗ったではないか。足を開き両手を腰に。これには一同驚く。
「お前らも見たいかっ!」「……」「よぉし判った。見たいんだな」
返事を待たずに両手をスカートに掛けた。一気に『バッ』と上に。
「部長っ! イケませんっ! お気を確かにっ!」
身を挺したのは山口課長だ。ここで全員死んでしまったら、果たして『労災』の理由に何て書けば良いのか困る。その一心だった。
「山口テメェッ! 俺じゃイケねぇっていうのかぁぁっ?」
髪を掴んで振り回す。しかし山口課長は目を瞑ったまま無抵抗。
「総員退避っ! プレゼンは終了っ! 早k、オワッ宏実ちゃん!」
責任者として『最後の指示』を発令していた。
全員が立ち上がると我先に出口へと殺到する課員達。余程山口課長には人望が無いのか、誰も助太刀する様子もない。
それ所か、閉めた扉を全員で外から押さえる始末だ。
『先輩だからってテメェ、許さねぇからなぁぁっ!』『うわぁっ!』
ゴトゴト激しいが、騎乗位な訳があるまい。幾ら机上であっても。




