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海底パイプライン(四十六)

『フゥゥゥッ』再び会議室がタバコの煙で満たされる。

 今度は煙が消えない内から江口部長の演説が始まった。出だしは静かな口調で。別に『怒っている』訳では無さそうだ。


「我々が目指すべき所は、現実をも超えた想像の世界だ。判るか?」

 会議室を見回して『反応』を見ている。しかし返事がない。

 ある訳が無い。全員が『目を合わせたらられる』と思っている。兎に角江口部長は『圧』が半端無く強いのだ。


「顔を上げろっ! 返事ぃっ!」「はい」「はい」「はい」「はい」

 途端に声が大きくなっていた。『いつも通り』と言われればそうかもしれないが、出だしが静かだっただけに余計に大きく聞こえる。

 言われた通りに顔を上げ、死ぬ気で『返事』をしたものの、実際に目が合うと一人死に、二人死に。

 江口部長と目を合わせただけで、次々と死んで行く。

 五人殺した所で、左掌に右拳を叩き付けながら歩き始めた。その間にも死者は増すばかりだ。そして死者への演説は終わらない。


「良いかぁ? 我々が目指す『究極のエロ』とは、何だぁ? 『肉眼を超えた映像』かぁ? ちがぁう。では『感覚をも超越した快楽』かぁ? それもちがぁう……。じゃぁ、何だぁぁっ! 答えろっ!」

 ビシっと指さしたのは、総務から派遣された『コンプライアンス審判』だ。ついでに『パワハラ』『セクハラ』『モラハラ』等々、私見も交えて勝手にジャッジするのがお仕事。略して『審判』だ。

『江口部長の圧が凄い』と聞き、正義面した若手の女性審判が意気込んで来ていたのであった。NJSの社風は『私が変える』と。

「あっ、あぅあぅあぅぅ……」『ピローン』

 確かにこれは凄い圧。白目になって行く審判。しかし意識を失う前に、何とか『緊急ボタン』だけは押していた。審判の意地だ。


『審査を開始します。今のが『セーフ』と思う方は『〇』を』

「無駄無駄無駄ぁっ! 遊んでんのかっ!」『〇が九九九票です』

 江口部長の一喝で、あっさり投票が終わってしまった。一体何をどうやったらそんなことが出来るのか。ポケットから手を出す。

 仮に『不正』があったとしても、最早誰にも止められない。


「お前らは『映像』に頼り過ぎなんだっ! それじゃダメだっ!」

 死人の頭上に一斉に『?』が表示されていた。しかし無言だ。

 無言のままであるが考え始める。ここは『AV事業部三課』であったと。そして『3D映像でエロ動画を創る部署』であると。


「何でもかんでも簡単に『映像化』してはいかぁん。肝に銘じて置けっ! しかしぃ、『教材としての価値』は認めよう。写真、図解、人体図。これらは『前提知識』として必須。必ず必要であるからだ」

 立ち止まって『フゥゥゥッ』と一息。何かに気が付いて周りの反応を確認しているが、特に変化は見受けられない。再び歩き出した。


「しかぁしっ。それ以降は、簡単に『映像化し過ぎ』だぁっ!」

 再び立ち止まって『フゥゥゥッ』。すると、さっき『俺のを参考にしました』と発言した奴の顎を掴んだ。グッと引き寄せて微笑む。


「判りやすさが重要かぁ?」「はっ、はいっ、いいえいいえいいえ」

 首を横に振りながら『はい』、縦に振りながら『いいえ』とは?


「そんなものは所詮、『お子様向けの痛い玩具』に過ぎぬっ!」

 試作品を握り締めると『バキッ』と音がした。直ぐに投げ捨てる。

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