海底パイプライン(四十四)
「えーそれだと、グラボも四枚挿さないと、ダメじゃないですかぁ」
「挿せよっ! 『16Kだ』って言うんだったら、挿して来いよ!」
「じゃぁアキバ行って来るんで、グラボ代と交通費お願いしますね」
「直ぐソコなのに、何で交通費が要るんだよっ! 走って行けっ!」
「じゃぁグラボ代下さい。四枚分」「あととんかつ代も特上ヒレで」
「なぁに寝ぼけたこと言ってんだっ! 他のPCから引っこ抜け!」
「良いんですか?」「ちょっとだけって、借りりゃぁ良いだろうが」
「それじゃぁ全然意味無いじゃんなぁ?」「だよなぁ。どうする?」
「グラボ代でとんかつ食おうとしてただけじゃねぇか! 交代だっ」
山口課長は追い払うように、大きく腕を振る。
すると、さっき『NG』ジャッジになった奴らが手を上げた。
「課長ぉ『今の』より『我々の方』が、評価は上ですよねぇ?」
すると山口課長の顔がより一層渋くなる。実はコイツ等も、盛大なる勘違いをしていて、見ただけで即却下となったのだ。
その『理由』すら説明することもなく。思わず溜息が出る。
「お前らのはなぁ『問題外』だ。『三課のポリシー』に合ってない」
右手を大きく縦に振りながら語る。しかし通じていないようだ。
「でも『2Dと3Dの融合』なのだから、かすっては居ますよね?」
確かに『今までの中』では逆に『まとも』に思える。
しかし山口課長は新規事業立ち上げに当たり、懇切丁寧に『コンセプト』を説明し、『二課との違い』についても『試写』まで行った。こいつら机の下で『試射』してただけなんじゃないかぁ?
「そのなぁ? 2Dと3Dの融合で『5D』って言うのなぁ?」
「中々『ナイスなアイディア』ですよね?」「仕上がりも5Dだし」
「いや、先ず『掛け合わせた』なら『6D』だよな? 違うかぁ?」
「いやいや課長。『融合』だから『足し算』で『5D』ですよぉ」
「そうなの? まぁ判った判った。じゃぁもう『5D』で良いよ。でもな? お前らのは『背景が3D』で『女の子が2D』なんだよ」
そう。指摘通りだ。しかも奴らのは『写真の背景』で、女の子の髪が風で揺れても、背景の草木がピクリとも動かなかったのだ。
「可愛いし、巨乳だし、良いじゃないですかぁ。何が悪いんだか」
「そうですよ。最後まで観て貰えれば、ちゃんと抜けましたって」
「だからコンセプトな? それにあれは二課のボツだろうがっ!」
「良く知ってますねぇ」「丁度良いのあるって思ったのになぁ……」
自席で『試射しまくってた』のが理由で、納期に間に合わなかった奴らは、サーバーから未発表作品をパクッて来たのだった。
しかし奴らは山口課長が腕を振るわせて『怒っている理由』を知らない。何故なら『その作品』は、山口課長が二課の主任だった時代に『監督した奴』なのだから。クレジットを見なかったのか?
「そもそもお前らはなぁ、社内で『魔法使い』と言われてんだろ?」
一気にシーンとなった。その様子を同類の山口課長が見渡す。
「もっとこう『グッ』と来る『イリュージョン』を起こせよっ!」
拳を力強く握って腕を大きく振り鼓舞する。一人が手を上げた。
「何だ?」「あのぉ『イリュージョン』は、『手品』ですよね?」
「イイイ良いんだよっ! そんなことはっ!」「フーッ。もう良い」
「大体お前らはなぁ、仕事を何だと思ってるんだ」「もう良い山口」
山口課長を呼び捨てにしているのは、隣に座っている江口部長だ。山口課長が差し出す火で、さっきからタバコを吹かしていた。
「毎日シk」「山口黙れっ! もう良いって言ってんだろうがっ!」
タバコの煙が顔に掛かって、山口課長の動きがピタリと止まる。




