海底パイプライン(四十三)
「だって課長『高画質に拘れ』って、言ってたじゃないですか……」
不満そうに大写しになった画面を指さしている。しかし今は、何も説明することは出来ない。そういう画がスクリーンに大写しだ。
見切れたタイトルが消えて本編が始まったが、説明は始まらない。
「そりゃお前『16色モード』で『CGだ』って言われてもなぁ?」
「ダメですか? 俺、それでゲーム作ってたんでぇ、良いかなって」
『あぁん。ダメェ。落ち着いて。マァだっ。もう、あわてんぼさん』
「何時の時代のゲームだよっ! もうちょっと良いPC買えよっ!」
「でも『ゲームの本質は画質じゃない』って言うじゃないですかぁ」
『いいわぁ。上手よぉん。その調子ぃ。あぁ。良いトコ来てるぅぅ』
「違う違う違うっ! 三課は『3Dのエロ動画』を作ってんのっ!」
「えぇぇ。じゃぁ俺、二課に行きますぅ。向こうは2Dっすよね?」
『あっ、あっ、あっ、まだイヤっ、もっとちょうだぁぁいぃぃっ!」
「いや二課は『アニメのエロ動画』だから。手書きでヌルヌルの!」
いつの間にか試写は佳境に入っているようだが、絵面は同じだ。
『あああああっ! イクッイクゥゥッ! いっしょにきてぇぇっ!』
「えっもうイッちゃったの? 早くね?」「いや『プロト』なんで」
大音量に驚いた山口課長が、説教を中断して振り向いていた。
思わず腕を上げて顔を背ける。何か飛んで来たと思ったからだ。
「いやだからさぁ、これ『コッチ』見たいときは、どうすんのぉ?」
スクリーンに対し『右上の方』を両手と全身を使って指し示す。
山口課長自身が『チェックしたい箇所』が見切れていて、どうやらそちらを確認したいようだ。すると平社員が特殊な機械を出した。
「こちらをお使い下さい」「それは何?」「使えば判ります」
まぁそれは簡潔に言えば『ジョイスティック』なのだが、何だか男としては触り難い形状をしているではないか。
山口課長は先ずそこを指摘したい。しかし『進行』を優先した。
『ぐにゃん』「何だよこの感触。随分と『リアル』だなぁ。えぇ?」
一応『芯』はあるがフニャフニャである。辛うじて扱えるか。
「俺のを参考にしました」「きったねぇなっ! ふざけんなよっ!」
思わず山口課長は手を離し、勢い良く勃ち上がってしまった。
「何言ってんですかぁ。ちゃんと消毒済ですから」「二度拭き済ぃ」
「そんなこと言ってもなぁ。これ使わないと、ダメなのかよぉ……」
「議事進行!」「議事進行!」「議事進行!」「議事進行!」
総会屋みたいな掛け声があって、山口課長はそっと握り締める。
「この『スタート』押すの?」「はい。そうです」「マジかよ……」
しかし再度スタートした16Kの映像は、山口課長の想像を遥かに超えて素晴らしいものだった。さっきまで『汚い』と言っていたジョイスティックを強く握り締め、我を忘れて『グリングリン』と何度も何度も何度も何度も、こねくり回しているではないか。
「これイイねぇ。うわっデカくなってるっ!」「フッ。そりゃねぇ」
『あああああっ! イクッイクゥゥッ! いっしょにきてぇぇっ!』
「因みに俺のを参考にしました」「お前、盛ってんじゃねぇぞっ!」
今更ティッシュで手汗を拭く。ハンカチを使う気には絶対ならぬ。
「どうすか?」「ちなみにコレは『オプション販売』の予定です」
「えっ、オプションなのっ?」「はいそうです。別売りですけど?」
「うへぇマジかぁ。コレなぁ。あっ、ちなみに無いとどうなるの?」
「どうって『さっきのまま』ですけど? なぁ」「ですです大画面」
「嬉しくねぇよっ! せめて『ディスプレイ四枚対応』とかだろ!」




