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海底パイプライン(四十二)

「もう良いや。次っ! 次は誰っ? もう早く出してっ!」

「良いってことは?」「撮影許可?」「んな訳無いだろっ、交代!」

 山口課長が右手を大きく振って叫ぶ。平社員の三人組はすごすごと立ち上がった。パソコンを片付けて次の発表者と交代だ。

 待っている間に、山口課長は再びライターで火を点けた。煙る。


「お願いします。我々の企画はこちらになります」「どれどれぇ」

 企画書が配られるのを『不思議に思う』かもしれない。

 全員がパソコンを持ち込んでいれば、各々の画面に会議資料を映せば済むことなのにと。しかし、ぶっちゃけそれは『好み』だ。

 今配られたのは、A4片面の紙に印刷された資料である。


 えっ? 何だって? また不思議に思っちゃった?

 A4の両面コピーにすれば紙の枚数が減らせる? コピー機で頁数は入っているのか? 穴あけホチキス止めはしているのか? 縮小コピーすれば枚数が減らせる? カラーコピーは高いから白黒?

 ちょっと待てちょっと待て。何か勘違いをしていないか?


 ここは『普通のオフィス』ではない。『喫煙所』だ。

 それも違う。思い出して欲しい。ここは『エロ部』だ。

 別名『AV事業部』の奴らが、発色の悪い再生紙に白黒で縮小印刷した、ヘッダーにプロジェクト名があり、フッターにファイル名とページ番号が振られているから、本文のエリアが更に小さくなっちゃっているような説明書付きの『エロ画像』で、果たして『満足できるか』をよくよく考えなければならない。無理な話だ。

 クリエイターたる彼らが、自らの作品を『想像』するだけでイク。そうでなければ『創造』など、出来る訳もなかろう。

 しかも彼らが作り上げているのは『趣味』では断じてない。

 汗と涙で懸命に働いて稼いだ『なけなしの金』から、衣食住の全てを投げ打ち、毎月毎月貯金して積み立て、夢を見て、夢を語り、清水の舞台から飛び降りてから買う『プロの作品』となるのだ。

 そう思えば『企画の段階』から、色温度を合わせた高画質の写真プリントで企画書を作ることに、何ら違和感はないだろう。


「すんごい解像度だなぁ。これ4K超えてるよね」

「はい。16Kです」「えっ? マジ? これが16Kかぁ……」

 山口課長が目を剥いて驚いている。まぁ、驚くのも無理はない。

 未だ家庭用のディスプレイが『4K』の時代に、4倍となる16Kの企画書が提示されたのだから。しかし様子がおかしい。

 全員が企画書を綴じていた黒のダブルクリップを外し、バラバラにして机の上に並べ始めたからだ。隣同士で場所を譲りながら。

「何か見辛い企画書だなぁ」「プリンタが4Kまでだったので」

 笑顔溢れる会議室で、机上に次々とエロ画像が広げられて行く。

「そうかぁ。じゃぁ新しいプリンタ、買わないといけないかなぁ」

 山口課長も『これだよこれ』と思っているのだろう。ご機嫌だ。


「じゃぁ、スクリーンの方にも映しますね」「おぉ、頼む頼む」

 平社員がパソコンを操作すると『エロ動画』が現れた。

 誰もが『画面の方が良い』と思ったのだろう。時折挟まっていた『説明頁』を纏めて左手に持ち、スクリーンを覗き込む。


「んん? なんだいこれは?」「いや、オープニングですけど?」

 言われた山口課長は、机に並べた資料と見比べる。

 しかしそれは、『A4サイズの一枚分』と、同じではないか。


「舐めてんのかコラッ! どうやって見んだよっ! 全部映せっ!」

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