海底パイプライン(四十一)
「そうだっけ?」「さぁ……」「お前が言われたんじゃないの?」
ボソボソと小さい声で話している平社員達。冗談じゃない。
山口課長の怒りは増すばかり。大きく息を吸った、そのときだ。
「課長、じゃぁ今度『冬』に行っても良いですか?」「なるほどぉ」
「それなら、今度こそ『白うさぎ』撮れるなぁっ!」「バッチリだ」
「『なるほど』でも『バッチリ』でもねぇっ! 許可出来るかっ!」
不許可を意外と思ったのか、平社員達は目を丸くして驚いている。
「『フワフワ』と『ムチムチ』を、撮らなくて良いんですかぁ?」
左手で抱え、右手で上から撫でた。言い方と顔は完全に『女体』であろうが、その実態は当然『白うさぎ』だ。何処に拘りが。
「どうせ山に行って、『スケボー』でもやろうとしてるんだろっ!」
「えっ、良いんですか?」「まじ?」「一日券は経費で落ちます?」
「ダメに決まってるだろうがっ! 大体『異種格闘』ってのはな、『宇宙人』とか『触手』とかだよっ! 人間と違う種類のぉっ!」
「合ってるじゃないですかぁ」「何処がだっ!」「違うのかなぁ」
「ちぃがぁうぅだろっ! じゃぁ、うさぎに『触手』はあるのか?」
話が通じていないと思った山口課長が、ビシっと指さす。
「そんなの、なぁ?」「だよなぁ」「あぁ。確率としては有り得る」
しかしまだ『うさぎと触手』が無関係なことに納得はしていない。
「何があるんだっ! 聞いてやるから言ってみろっ!」
すると一番真面目そうな奴が『スッ』と手を上げて発言する。
「あれだけ年中『パンパン』してれば、突然変異で生まれるかも?」
「生まれる訳ないだろっ!」「生まれませんかねぇ?」
「大体『パンパン』とか、何とかして人間っぽく言うのヤメロッ!」
「えー? じゃぁ何て言うんでs」「交尾だっ! 只の交尾っ!」
「うわうわぁ。ストレートに言っちゃって……」「課長、こぉわっ」
場の空気が変わったことに、山口課長も気が付いていた。
最近『禁煙』と共に『施躯破裸』も、総務から『禁止事項』として回覧されて来たのだ。エロ部、いやAV事業部に緊張が走ったのは言うまでもない。正に『存続』が危ういとも。
「審査を開始します。今のが『セーフ』と思う方は『〇』を」
末席に控えていた審判のコールに山口課長は振り向いた。
「待ってくれっ!」「『退場』にしたい方は『×』を押して下さい」
待ってくれなかった。審判は首を横に振り、あくまでも『中立』を装う。すると前方の画面で『三桁の数値』が踊り出す。幾つだ?
『チーン』「御覧の通り〇が十五票、×が五票です。ちっ」「ふぅ」
山口課長は思わず汗を拭いていた。目を鋭くし、会議室に座る十人の顔を順番に睨み付ける。悔しいのだろう。歯ぎしりまで。
くっそぉ。目を合わせない奴らが絶・対・に怪しい。
無記名投票だが、誰が『×』に入れたのかは予想が出来る。『アイツ』と『アイツ』と『アイツ』と『アイツ』だ。後は判らん。
くっそぉ。あいつらぁぁっ。恩を仇で返しやがってぇっ。
山口課長は『禁煙はまだ判る』と思っていた。多分何処かで『指示の一部が文字化けしてしまった』のだろうと。
しかし『施躯破裸』については理解不能だ。エロ部、いやAV事業部に、どうしてそんな通達が来るのか。信じられぬ。
いや、出来ることなら、寧ろこっちを『文字化け』と思いたい。
少し落ち着いた山口課長は、ドカッと椅子に腰掛けた。




