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海底パイプライン(四十)

 NJS『AV事業部』は、通称『エロ部』と呼ばれている。

 間違えないで欲しいのは『事業部』という名前から、相当大きな部署と思われるかもしれないが、実はそうではない。

 読み方として『AV事業』で区切り、それを行う『部』である。

 一課、二課、三課とあって、三課は技術の進展に伴い最近設立された部署だ。三課だけに『3D』を取り扱う、言わば『最先端』だ。


「君たちの企画にはガッカリだよっ! どいつもこいつもっ!」

 タバコの煙が充満する会議室で、企画書が机に叩き付けられた。

 それがツツーっと流れて対面の平社員の前に。顔は上げられない。


「何なんだぁ? この企画はっ! 意味判んねぇよっ!」

 手元に企画書が無くなったものだがら、今度は拳で机を叩く。

 そうなると平社員は委縮するばかりだ。下を向いて顔を見合わせる。しかし単に下を向いている奴も居て、そいつは『フリ』なので委縮はしていない。スマホでエロ動画でも観ているのだろう。


 山口課長は溜息をついて席に座った。ライターで火を点ける。

 すると『フーッ』とタバコの白い煙が水平に流れた。今のこのご時世『会社の会議室で喫煙かよ』と、思うかもしれない。

 ある意味正しくて、ある意味間違っている。


 確かに変な会社の代表格であるNJSですら、昨年末までに分煙化を完了した。それ以降『自席での喫煙※(及び合法非合法を問わず薬物の使用)を禁ずる』とロッカー裏に張ってある。

 ※括弧内手書き。誰が書いたかは不明。

 しかしAV事業部三課の会議室は『喫煙室』なのだから、そこは全く問題ない。ちなみに『会議室として使用している』ときは『上映中』と掲出してあるので判りやすい。そのときは仕方ない。

 トイレでも非常階段でも女子更衣室でもサーバー室でも、兎に角バレない所で吸うしかない。給湯室は昔『ガチの火災』になって、消防車が出動する大騒ぎになったことがある。

 だからもし『犯人』と間違えられると『クビ』は免れないので、灰皿を用意する等の注意をする必要があるだろう。


「何で可愛いからって、キャラを『ウサギ』にしたんだ?」

 タバコの煙が会議室に十分広がってから、山口課長が問う。

 すると顔を見合わせていた三人の内、一人が手を上げて答える。


「あのぉウサギって『年中やってる』って聞いたんでぇ」「えっろ」

「だからって、何で『ドキュメンタリー』になってんだよっ!」

 今は安くない予算をつぎ込んだ『新しい企画の成果』を発表する場である。彼ら三人が取り組んでいたのは『異種格闘』がテーマだ。


「お前らが『素材の撮影』って言うから、青森までの飛行機代を出してやったんだぞっ! それが何で『全部茶色』なんだよっ!」

「いやあ現地で聞いたら、なんか『今の季節はそうだよ』って……」

「調べて行けよっ! 『フワフワの白うさぎ』は冬だってさぁっ!」

「らしいですねぇ」「初めて知りました」「ねぶた祭、最高でした」

「ちょっ、おぉまぁえぇらぁぁぁっ! お土産も買わないでっ!」

「だって課長は『良い』って言ってたじゃないですか。なぁ?」

「そうですよ。『そんなのより良い画だ』って、ねぇ?」

「そうだっけぇ? 『ねぶた祭観て来いよ』じゃなかったぁ?」

 三人が顔を見合わせて首を傾げている。腕を振るわせていた山口課長は、思いっきり『ドンッ』と机を叩いた。

「『ねぶた祭観てないで、ちゃんと仕事しろよ』って言ったのっ!」

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