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海底パイプライン(二十八)

 口を半開きにした朱美が徹に持たれかかる。目は虚ろだ。

 倒れながら、両手で徹の背中に掴まろうとしたのであろう。左手は徹の右肩に。背中に回すのがやっとで力が無い。左肩に顎を乗せたからか、右手はダラリと垂れ下がった。辛うじて徹に『引っ掛かっただけ』である。まだ息が荒い。


「良かったよ」「ハァ。ハァ。ッ。ハァ。ハァ」

 徹は良い香りのする朱美の耳にキス。無抵抗な朱美。

 可愛さ余って右手で優しく頭を撫でてやると、抑え込んでいた朱美の左足がバタンと倒れる。しかし徹はそのまま立ち上がった。

 ぐったりとした朱美を徹は抱き上げる。左手一本+αで。


 朱美の美しく長い脚。背の高い徹に抱き上げられているからか、真っ直ぐに伸びている。上にまくれ上がってしまったスコートによって、余計に長く感じて。そこへ、ツツーと沢山の汗が。内ももから膝裏に回って、やがてふくらはぎへ。いや違う。

 その前に徹が太ももに手を伸ばし、優しく引いてた。逆流した流れは、やがてポタリとベッドの上へと。一つ。二つ。光りながら。


 すると朱美は左足首を軽く振って徹に巻き付ける。そのタイミングで徹は左足を更に引き上げて支える。

 しかし逆に朱美は、体制を崩していた。左足を上に引き過ぎてしまい、徹の肩に引っ掛かっていた朱美の顎が外れてしまったのだ。支えを失って後ろに倒れて行く朱美。

 徹は器用に左手を動かし、朱美の右足を自分の肩に掛ける。背中を掴んでしっかりと繋ぎ止めた。ここで朱美を落とす訳がない。


「大丈夫?」「ハァ。ハァ」

 朱美は徹と目を合わせるのもやっと。全力で試合を終えたばかりにしか見えない。小さく頷いて体を反らせてしまった。

 徹はゆっくりと歩き出す。ベッドを降りて浴室へと向かう。

 しかし『ガラス張りのシャワーコーナー』は素通りした。

 確かに『二人で立って入る』には狭く、しかも腰辺りに『邪魔な台』がある、変なシャワールームだからであろう。


「靴、脱ごうか」「……はい……」

 徹が向かったのは奥にある『特別仕様の浴室』である。全て『朱美のため』に設計して施工した、この世でただ一つの。

 促されて朱美は左足を降ろした。しかし手が届かない。すると徹が膝を折り、朱美の左足の靴紐に手を掛ける。

 そのまま無言で引く。靴には『デンジャー紐』を、仕掛けてはいなかったらしい。緩んだ踵に指を突っ込んで、靴下ごと脱ぎ捨てる。

 浴室の床に、白いテニスシューズが片方だけ転がった。放置。


「さぁ、ここにね。ゆっくりで良いよ」

 朱美は体を反らせたまま、徹にされるがままになっていた。

 やがて朱美は『浅い浴槽』へと半身だけ浸される。頭からゆっくりと降ろされて、朱美は徹の背中から手を離した。

 体の左右に降ろされた朱美の腕は、背中よりも後ろへ。暖かいお湯の中へと沈んで行く。朱美は背中がお湯に浸かって、いやお尻がお湯に浸かったから、だろうか。やっと安堵の表情に変わる。

 お湯に浸かった両手を真っ直ぐに伸ばし、泳ぐようにゆっくりと振り始めた。手によって起こした波で、スコートを濡らしている。

 見れば朱美は、いつの間にか『夕刻の入り江』に飾られていた。


「綺麗だよ。眩しい位に」「……」

 さっきまで『白一色』だったはずの朱美の衣装が、今は全てが赤く染まっている。顔も真っ赤なのは、恥ずかしいのか、それとも照明の効果か。兎に角顔を真っ赤に染めた朱美は、無言で目を逸らす。


「綺麗な景色ね……」「雰囲気あるだろう?」「えぇ。夢みたい」

 朱美から見えるのは、丸い天井一面に映し出された『南国の空』である。勿論『床から天井』までも同様であり、没入感が凄い。

 赤く染まった雲がゆっくりと流れ、ヤシの木が風に揺れていた。その上、実際は『結露防止』なのだろうが、心地よい風まで感じる。

 静かに聞こえて来るのは波の音ばかりか。波打ち際の如くに。

 すると、今正に海に沈もうとする太陽の前を、一艘のヨットが静かに横切って行く。逆光なので黒いシルエットであるが。

 周りをゆっくりと眺めていた朱美が、首を傾げて微笑んだ。


「この景色も?」「いや、それは違うんだなぁ」

 どうやら『この景色』は、硫黄島ではないらしい。そりゃそうだ。

 軍事機密なのだから、『映像』なんて出回っている訳がない。


「パイプラインはこの辺と、この辺にね?」「やだぁ」

 徹の指が、素早く朱美の足と腕を撫でる。朱美はもう、全く覚える気配がない。くすぐったくて、笑いながら体をよじらせるだけだ。


「フフッ。えいっ」「あっ、何するんだよぉ」「えいっ、えいっ」

 朱美の下半身はロックされていて、逃げ果せないにも関わらず、満面の笑顔で徹を濡らしに掛かる。

 徹が止めさせようと手を掴もうとしても収まらず、まだ止めようとはしない。気分はもう、完全に『南国リゾート』そのものである。


「もぉおぉ。悪い娘だ」「何よ。まだ『繋がってる』癖にぃ」

 悪戯っぽく下を指さす朱美。息も大分戻っているようだ。

 徹がポロシャツのボタンに両手を掛けても、まだお湯を掛けて笑っているではないか。そんなに『体』を濡らしたいのか?


「お仕置きっ!」『ビリリッ!』「きゃぁっ!」

 白いポロシャツは、真ん中から引き裂かれていた。ボタンなんて何処かに飛んで行ってしまったようだ。中から現れたのは、当然のことながら『乱れた下着姿』である。朱美は直ぐに両腕で隠した。


「乱暴なんだからっ」

 しかし徹は答えないし、柔肌を守るその手をどうにもしない。

 いや『いずれは』であろう。お楽しみは『後に』か。

 先に手を伸ばしたのは、頭にある『サンバイザー』である。つばに手を掛けると、朱美も協力的に顎を引く。徹は海へと投げ捨てた。

 おもむろに朱美の両手首を掴む。すると今度も朱美は協力的だ。

 ゆっくりと引き剥がされた両の手は、海へとダラリ。

 そのまま腰を浮かせながら、ゆっくりと上に。徹は引きちぎられたポロシャツを、下から上に捲り上げていた。

 そうするのであれば、別に引き裂く必要なんて無かったのに。

 兎に角『朱美を覆う一番大きな布地』は、徹が海へと投げ捨てた。そのまま暫し眺める徹。今度は朱美も徹と向き合って微笑んでいた。


「頭を上げて」「こう?」「そう」「あ、そのまま引っ張って」

 ポニーテールは朱美の頭の下にあった。ゆっくりと引っ張り出した白い髪留め。髪の根元を朱美が両手で押さえ、徹が輪を掴む。

 流れるように髪を滑らせるとスポンと抜ける。徹は当然のように、髪留めも海へと投げ捨てた。朱美は髪を整えている。

 頭を『元の位置』に戻すと、微笑みながら髪を頭上へ。ゆっくりと波間に漂わせていた。朱美の目は『これで良いんでしょ?』だ。

 徹は満足気に頷く。いや、まだ満足出来ないのか、朱美の上半身に残っていた白い布地にも手を伸ばす。すると朱美が慌てる。


「これは切らないで」「判った」

 お気に入りなのだろう。徹が肩に残っている紐を、指一本で外していく。そのままゆっくりと下へ。下へ。朱美が背中を反らせる。

 徹は意地悪するでもなく、ちゃんと切らないようにゆっくりと引っ張っていた。しかし引き抜いた後は、例外なく海へと投げ捨てる。

 朱美は頬を膨らませ『もぉ』の表情を魅せているが、別に本気で怒っている訳では無さそう。寧ろ『男って』と、呆れているのかも。


「これも脱ごうか」「うん」「脱がせるから曲げて?」「はい」

 朱美は徹の太ももの上にある右足を曲げた。すると徹は、靴底で踏まれる前に膝裏を支えてさらに上へ。右足だけ残っていたテニスシューズを、今度は靴紐も緩めずに脱がす。


『ボチャンッ!』

 当然のように海へと投げ捨てるが、それは少し遠目に。

 水音のする方を見た朱美を他所に靴下も脱がせると、それは靴とは反対側へと投げ捨てる。朱美は『そっちなんだ』と思いながら、徹の様子を笑顔で眺めていた。そして気が付く。


 徹は朱美の膝裏に引っ掛かっていた白い布地を引っ張っていた。

 今更どうにもなるまい。もう『全て』が水に浸かっている。朱美は余裕の表情で眺めるばかりだ。

 徹もそれを判っていたのだろう。引き裂きもせず、ゆっくりと足首から外しに掛かる。朱美もどうせだったら、徹に『美しく』愛でて貰いたい。足首をピンと伸ばして『どうぞ』である。

 すると徹は布地を抜き取ると、今度は投げ捨てなかった。

 直ぐにお湯に浸すとそれを朱美の体へと。絞りながら下から上に移動させる。驚いたのは朱美だ。両方の肘を擦り合わせるようにしながら、掌を上と下にして体を守っている。実に色っぽい。


「やだぁ」「さっきのお返し」「んもぉ。変態っ!」

 顔には掛けていない。折角『へそから胸まで』にしてあげたのに、その言い草は何だ。徹は今度こそ布地を投げ捨てた。固く握り締められたそれは『ポチャン』と音を立て、お湯の中で広がり始める。

 しかしまぁ、『変態』と言われた徹も満更ではないようだ。


 徹が両手を朱美の太ももに手を掛けると、朱美は腰を動かした。

 スコートだけになって『嫌がっている』のだろうか。恥ずかしそうにモジモジとした仕草。

 しかしそれは『明らか』に違う。徹から見て、スコートは既に『朱美の腰辺り』まで上がってしまっている。

 もう『可愛い後輩』は覚悟を決めて、最後に残った一枚の『外し方』を徹に示そうとしていたのだ。徹は朱美の指先を見た。

 マニキュアで綺麗に飾られた、可愛い指先ではないか。

 その先、布地の陰から見えたのは『ジッパー』である。徹は頷いて、それをゆっくりと下へ。するとスコートは『輪の状態』から、『一枚の布』になってしまったではないか。


「変態」「そういうのも有るのっ!」「どうだか」「本当よっ!」

 朱美は笑っている。怪しいではないか。しかし腰を上げて協力的な朱美に助けられて、無事スコートを投げ捨てることに成功した。

 これで俺の朱美は生まれたままの姿だ。正に互いに素である。


 二人は入り江の奥にある砂浜から海へと伸びる、柔らかな岩の上にいた。そこは朱美の肩と腰を支えるだけの『飛び石』となっていて、背中だけが沈んでいる。振り上げられた朱美の足が、徹の腰へと巻き付く。朱美の髪が波間に揺れていた。

 投げ捨てられた白い布地が赤く染まっている。揺れながら二人を取り囲むように。やがては海の底へ。


「あぁ。あぁあぁ」

 動き出した徹の動きに合わせて、朱美の体を下から波が包む。

 実にこそばゆい。朱美は微笑みながら徹を見つめていた。揺れに合わせて左右に首を振りながら。半開きの口から漏れ出る喘ぎ声。

 時折ゆっくりと瞬き。顎を引いたかと思うと、今度は突き出して。

 暖かい。果たしてこれが、朱美が希望した『シャワー』なのかと思えばそれはいささか疑問に値しよう。


 しかし朱美は徹が好きだ。朱美をむさぼる徹は大好きだ。

 愛おしい。さっきの『壊す勢い』も堪らないが、このゆったりとしたリズムも心地よい。吸い付く肌。上も下も表も裏も。水中から水上まで徹の手が踊っている。どこを触られても心地よい。

 更には波も。あぁ、まるで本当の『海』に溶けて行くような感覚。



 静かに陽は落ちる。辺りは暗くなり、やがて水平線だけが赤く。

 西の空に『一番星』が輝く頃になって、朱美の足が高く掲げられていた。同時に聞こえた水音は両手のものか。それとも髪の音か。

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