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海底パイプライン(二十六)

 朱美は恥辱にまみれていた。徹を感じている。

 今頃『大騒ぎになっているだろう』と思いながら。いつもそう。

 徹は焦らして来る。自分でも二度目は『準備完了』と思っていても、体はどうしても『初めて』と認識してしまう。

 徹を見て『有り得ない』と思ってしまったら『最後だ』と言うのは、自分でも自覚しているつもりだ。恐怖が先に立つ。

 あぁ、また戦いが始まる。これで何度目だろうか。




「キャァァッ!」「ナニコレッ!」「止まりなさいっ!」

 門番が弾け飛んでいた。見るも無残に。正面からぶつかってしまった者は尻餅に。横から突っ込んだ者は弾き飛ばされて。

「止まらないと、キャァッ!」「伝令っ! 緊急事態っ!」

 統一されたピンク色の衣装を着た乙女たち。良く見れば、一人づつ微妙に異なるデザインであると見て取れる。

 さっきまで穏やかに談笑していたであろう、穏やかな表情は一変。各々が得意な武器を取って身構える。


「キャァッ」「強いっ」「こんなことって。あぁっ」

 後詰めも突破されてしまった。しかし次は中門が迫っている。

「何してるのっ! 早く立て直s」「朱美ィッ!」「ダメェッ」

 門番は『重大な責任』を感じている。最初に自分が守り切れなかったばっかりに、中門までに万全な体制が取れなかったと。


「何をしているっ。そんなんで『紫宮の守り手』と言えるのかっ!」

 中門を突破された所に現れたのは、同じピンク色の制服に身を包むも、これまでとは異なる雰囲気を醸し出している。

 簡単に突破された中門までの娘達とは違って、実力は数段上か。


「あれは、四天王おねぇさまっ」「がっちりと受け止めたわっ!」

「さぁ、早く立て直すのじゃ。朱美、そっちからよろしくぅ」

 四天王の中でも一番大きな体格の朱美が受け止め、朱美に指示。

「了解。さぁて四天王の力、伊達じゃないって所を見せてあげる!」

 息の合った見事な連携プレイ。朱美は隣の朱美に目配せ。

「行くわよっ! 四天王プレースッ!」「ふっ。他愛もない」

 四人揃い踏み。誰にも押さえられなかった攻撃を、いとも簡単に止めて見せた。倒れた娘達は勇気を貰い、次々と立ち上がる。


「凄い。あれが噂の『四天王プレス』ねっ!」

「何人たりともあの重圧に『耐えられるモノは居ない』と言う……」

「私も早く、ああなりたいわぁ」「朱美には無理よ」「何よぉ」

「こらこら。ぼさっと見ていないであんた達もプレスを掛けるのよ」

「はいっ! 朱美、行くわよ。怒られちゃったじゃない。プレース」

「何よ。貴方がさぼっていただけでしょ?」「何よって何よ」

「朱美って、いっつもそうなんだから。大体朱美はねぇ、肝心なt」


「早くプレスを掛けなさいっ」「はい、朱美おねえさま。プレース」

「門番まで立ち直って来たわね。良し。押し返せる。朱美行くわよ」

「OK。待ってました」「準備は良い?」「何時でもっ!」

 四天王一同は頷く。そして一斉に詠唱を始める。

『更にプレースッ』『更にプレースッ』『更にプレースッ』

「見て。あれが四天王究極の合わせ技『四天王ハイプレス』よっ」

「押しつぶしちゃえぇぇっ!」「私達も負けてられないわっ!」

 振動が凄い。互いに『ここが正念場』と言えるだろう。


「ふふふ手応えありね。効いてるわ」「押し付け合いなら負けない」

「朱美さん。随分余裕みたいだけど? 大丈夫かしら?」

「何を言ってるんだ。こっちはもうギュウギュウだぜ?」

「こちらも朱美さんに合わせて押し込んでますけど。かなり」

 四天王の額に汗が滲む。互いに『おかしい』と感じ始めていた。


「おい待てよ。これだけ押し込んどいて? どうなってやがる」

「均等に押さないとダメッ。ハイプレスは強さが三倍になる分」

「崩れ始めたら凄いって言いたいんだろ?」「判っていて何故」

「俺もさぁ、さっきから隣の朱美と合わせてやろうと、して」

「ちょっと待って下さい? 朱美さんに合わせてるの、寧ろ私が」

「みんなっ『呼吸』を合わせてっ! 『スゥスゥハッ』よっ!」

「判ってるっ! さっきから『スゥスゥ』ヌゥゥ」「耐えられない」

 四天王の苦戦は、直ぐに全体に伝えられる。並々ならぬ『ビリビリ』とした振動が納まらない。


「そんなっ、四天王シスターズが押されてるわっ!」「うそっ」

「私も限界っ」「押さえても押さえてもダメだよぉ」「泣かないで」

「ここが踏ん張り時よっ!」「でも私……」「朱美、気を確かにっ」

「私達の力を合わせて、四天王のおねえさま達を守るのよっ」

「だ・め・だぁあぁあぁっ」「あぁ、このままだと紫宮がぁっ!」

 焦るばかりで崩壊するかに見えた戦線に、突然一筋の光が射す。


「あなた達? 一体何をしているのかしら?」「あれはっ!」

「最奥に控えし我らが守護神、朱美さまっ!」「美しいわぁ」

 やはりピンクの衣装に身を包み、一段と華やかに。手にはフワフワの付いた扇子。それを仰ぎながら苦しむ四天王の傍にやって来た。


「さぁ、ここは私が引き受けましょう。ヒラリストップ」

「凄い。片手で受け止めてしまったわ」「ふわふわの扇子、素敵!」

 驚く四天王の表情が『面白い』のだろう。しかし笑顔を扇子で隠して上品に頷く。一息付いて、再び扇子で仰ぎ始める。


「四天王シスターズ。ここまでよく頑張りました。もう大丈夫です」

「朱美おねえさま。申し訳ございません」「申し訳ございません」

 四天王が頭を下げても、扇子を横に振るばかり。

 するとその扇子を空中でパッと一振り。現れたのは美しい水玉だ。


「良いのよ。さぁ、これを授けましょう」「こっ、これは!」

「特製の『ラブジュース』です。さぁ、これを飲んで立て直しです」

「あぁなんて神々しいのでしょう。これさえあれば私達は負けない」

「フフフ。大げさですね。でも元気が出るのは良いことです。さぁ」

 空中を何度も仰ぐ。すると美しい水玉が、あれよあれよと沸いて来たではないか。四天王は慌て始めたではないか。


「朱美おねえさま? ラブジュース、量が多くありませんか?」

「何を言っているのです? ほら見てごらんなさい」「はっ」

 優雅に扇子で示された先を見て、四天王の顔色が変わった。


「皆、あんなに頑張っているじゃないですか。順番に届けるのです」

「畏まりました。至急支給します」「門番までね? 紫宮だけに」

 誰も突っ込まない。全員『受け専門』のようだ。致し方なし。

「さぁ、皆、朱美おねえさまのラブジュース、タップリ飲むのよっ」

「凄い。これがラブジュースなのね。力が漲って来る……」

「倒れてなんて居られないわっ」「そうよ。ここで押し返すのよ」

 次々と立ち上がる娘達。効果は絶大だ。


「でも、門番の私にまで支給して頂けるなんて」「もったいない」

「あぁ飲み切れなくて、門の外まで零れて行ってしまうわぁ」

 奥からフワフワと飛んで来たラブジュースは、忙しく戦う門番の手をすり抜けると門の外へと。そこで弾けて滝のように流れる。


「でも、私達ならやれるっ!」「そうよ、ラブジュースパワーよ」

「門番の私達にもやれることはあるっ!」「見せてあげましょう」

「朱美、行くわよ?」「任せてっ」『門番ハイパーロォォック!』

 全員での合わせ技だ。今、心を一つに。


「門番の朱美達、張り切っちゃって」「ラブジュース溢しすぎぃ」

 中門の娘達が門番達を見て笑っている。中門から見れば、門番の働きは『可愛い抵抗』に過ぎないのかもしれない。

 それでも、彼女達から『勇気を貰う』には十分だったようだ。

「ここは中門も黙ってられないね」「いっちゃうぅ?」

「行こうぜっ。中門の意地ってのを魅せてやろうじゃないのっ!」

 士気は十分。こちらも合わせ技を行使するようだ。目が離せない。


「中門スーパーロォォォックッ!」「おおおこの振動っ!」

 解説しよう。中門スーパーロックとは、侵入者締め付けるだけでなく、折り曲げてしまう程の力を持っているのだ。今までにこの技を受けて切り抜けた猛者は居ない。正に中門の『切り札』である。


「凄い締め付けだわぁ」「流石にもがいているのぅ」

 気合は伝播する。中門の働きを見て四天王が感心している。

「中門の意地、とくと見た」「では、我ら四天王も負けてはおれぬ」

「そうだな。紫宮を守る四天王の名に恥じない締め付けを御覧あれ」

 いよいよ四天王も『合わせ技』の発動か?

「もう朱美ったら。ラブジュースがそんなに美味しかったのかしら」

 いや違う。普段『お役目』が無い分、四天王の中に『余裕』という名の『油断』があったのかもしれぬ。


「四天王シスターズ? 今は『私が押さえている』って判ってる?」

 朱美にはそれが十分判っていた。被害が広る前に一喝。

「失礼しました」「お手を汚してしまい、申し訳ございません」

 戦闘中なのに和やかな雰囲気。しかし直ぐに吹き飛ぶ。

「ここは朱美おねえさまの許可を頂きまして」「ちょっと?」

「使うの? あれを?」「ええ。大技を掛けたく存じます」

 一人の朱美の提案に、他の朱美が騒めき出す。

「それは『最終兵器』なのよ? 判ってるの?」「判ってるわっ」

「今使わなくて、いつ使うのっ!」「でも……。朱美おねえさまが」

「朱美おねえさまなら、大丈夫よ……。きっと」「そんな無責任な」

「じゃぁ一体、どうしろって言うの?」「それは……」

 四天王の朱美達が、気まずそうに目を合わせる。


「私達の『四天王ハイプレス』は敗れ去ったのよ?」「判ってる」

「判って無いっ! 全然、判って無いっ!」「判ってるわよっ!」

 朱美の意見に、朱美は全然納得していないようだ。強い調子で怒りを露わにし始めた。

「じゃぁ、もう一度『四天王ハイプレス』を掛けろと言うの?」

「くっ、それはもう」「このままだと、皆が倒れてしまうわっ」

 どうやら立場が同じ『四天王』だと、結論は出ないようだ。


「許可します」「えっ?」「今何て?」「朱美おねえさま?」

 一歩前に出て発言した朱美の言葉に、四天王の朱美が驚く。

「ですから『許可します』と言ったのです」「そんなっ」

「御覧なさい。四天王の貴方達が迷っている間にも」

 朱美は扇子で再び指し示す。ラブジュースを飲んで、勇ましく戦う娘達の姿を。あえて今、四天王にその姿を見せたのだ。


『門番ロックッ!』『効かないっ!』『何故だっ』『こんなにも』

『中門スーパーロック!』『何故折れぬっ!』『もう、限界……』

『あぁ、あんなにあった『ラブジュース』が、もうちょっとしか』

 阿鼻叫喚の地獄絵図とは、このことかもしれない。


「四天王の貴方達は、何も『感じない』のですか?」「……」

「でもっ」「朱美おねえさまが……」「良いのです……もう……」

 朱美を心配していた朱美達の顔から血の気が引く。見れば朱美の額に、薄っすらと汗が滲んでいるではないか。


「はっ」「まさか? 朱美おねえさまが?」「そんな……」「うそ」

「ふぅ。四天王の貴方達には、どうやら隠し通せませんね」

 汗を拭う朱美。今までこんな『苦境』は見せたことがなかった。


「朱美……おねえさま……」「申し訳ございません……」

「泣かないで? ほら。今まで、良くぞ尽くしてくれました」

「うぅうぅ」「朱美おねぇさまぁあぁっ。いやだぁぁぁっ」

 朱美と四天王の朱美達は、生まれたときから助け合って来た。故にこの後、『何が起こるか』について、十分に判っている。


「可愛い朱美。いつも一緒でしたものねぇ。でもダダはいけません」

 甘えん坊の朱美に優しく諭す朱美。そこへ朱美に『言わせてはいけない』と思ったのか、四天王の朱美が朱美の肩を叩く。


「朱美。他の朱美だって、泣きたいのを堪えてるんだ」「でも……」

 駄々を捏ねる朱美に朱美は涙を拭きながら言う。

「朱美は、朱美ねえさんを『泣かせたまま』にして良いのかい?」

「はっ」「やだ。これは涙じゃなくて、ラブジュースです!」

 嘘でも良い。朱美は涙を拭いて笑顔を魅せる。すると四天王の中で一番元気の良い朱美が、大声を張り上げる。


「行くよ朱美。ここで私達四天王と、朱美ねえさまの『合体技』!」

「とくとご覧あれだねっ!」「そうさ。私達の紫宮は?」

「絶対に守るっ!」「フフ。朱美も元気が出ましたね」「はいっ!」

 涙はもうない。そう。我々朱美は、朱美の紫宮を守るために生まれ、そして役目を全うして昇天してイクのだ。後悔は何も無い。


「では参りましょう」「はいっ!」「ぶちかましてこっ!」

「魅せてやるにゃん!」「絶対性交させてやろうなっ!」

「四天王が持つ全ての力を開放するぞっ!」「一滴も残さずなっ!」

 心が一つになっていた。直ぐにファイナルフォーメーションを取る朱美と四天王の朱美達。両手を前に組み、高らかに宣言だ。


「全体に号令! 奥義発動っ! 秘奥義『竜巻圧搾』最大出力っ!」

「門番から順に、搾り尽くせぇえぇえぇぇっ!」

「お前ら、一滴も無駄にすんじゃねぇぞぉおぉおぉっ!」

 朱美は四天王の言葉をにこやかに聞いていた。

 そして静かに目を瞑る。深呼吸の後、目を大きく見開いた。


「ラブジュース・全量開放。先端・ソフトタッチ・開始!」




「ああああああっ! ちょぉぉぉだぁぁあぁぁぁいっ!」

 朱美は上を向き、役どころも何もかも忘れて徹に強請る。

 一分の間、朱美は前義に耐えていた。朱美のお願いを聞いた徹は、先ずはゆっくりと着衣の乱れを整える。それからおもむろに腰を。

 まずは一度だけ。一息ついて、それからゆっくり。ゆっくりと。

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