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海底パイプライン(二十五)

「これで、宜しいでしょうか……」

 楓の頭から冷水をぶっかけたら、一瞬で元に戻った。

 折角『正気』に戻してやったのにビンタされて。その後も『変態扱い』は変わらない。部屋にも絶対入れて貰えなくなったし。

 その割には人の部屋に入って来ると、ふざけて『ダブルピックアップ』をしようとする癖に。色目まで使って。何のストレス発散だ。

 でも、朱美と結婚してからは、迫って来なくなったなぁ。

 時々来賓食堂を通って来た楓が、朱美を拉致して行く。

 楓もお年頃だし、女同士の方が色々分かり合えることもあるのだろう。お陰で朱美も家に馴染んでくれているようだし。良いことだ。

 面倒見の良い朱美のこと。楓もきっと、良い感じで相手して貰っているに違いない。しかし楓、今日は何処へやら。


「先輩……。あのぅ、私……」

 徹は我に返る。見れば朱美が『もう、お許しください……』と視線を送っているではないか。徹は直ぐにハンドサインを送った。

 朱美はその指示を見て、ホッとした表情になり、直ぐに頷く。


 指示には忠実に従う。今の朱美が『そうしなければならない』のは判っている。頭では判っているが、徹の指示は意外と難しい。

 何しろ今のは『降ろせ。ゆっくりとな』であるからだ。


 朱美は深呼吸しながら『最初のミッション』を無事終える。

 すると今度は別の指示が。朱美は徹の目に吸い寄せられていた。

 何せ徹は、相変わらず『鋭い目付き』で朱美を見つめたままだ。まるで獲物を狙う蛇。今年の干支だけに。

 握り締めた拳。親指だけを立ててグルリと一回転させる。

 元の位置に戻った親指で後ろを指す。朱美は理解して頷く。

 今のは『足元から上がって来い』であろう。


「失礼します……」

 気を付けの姿勢にから一礼。朱美はクルリと向きを変え歩き出す。

 徹からは『白の紐パン』が見えていた。予想通りだ。しかし朱美は『この先の未来』を予想したのか、途端にモジモジし始める。

 気が合う二人。徹は唇が渇いたのか。唇をゆっくりと舐めた。


 徹の目の前でスコートが左右に揺れ始める。朱美は手を添えようとするが、咄嗟に『怒られる』と思って止める。手は空振り。

 無意識の内に、膝を重ねるように歩いていたからだろう。膝上にある裾が腰の動きに合わせて、左右に緩やかな曲線を描いていた。

 当然、等間隔に見えていた縦縞も左右に揺れている。まるで波のように捻じれ、反対側へと大きく揺れ動きながら。


 徹はその様子を、横からじっくりと眺めていた。

 見たいものが見えそうで見えない。見えるのはライトに照らされて、白く光りながら揺れる太もも。シュッとしたふくらはぎ。

 まぁ良い。偶然に頼る必要など無い。十分堪能したではないか。

 徹は堪らず仰向けに寝そべる。片時も朱美からは目を離さずに。

 枕の位置を調整して顎を引く。そのままベッドサイド、足元に来た朱美の立ち姿を鑑賞し始めた。実にイイ。朱美は膝を擦りながら指示を待つばかりだ。自分の意思は何ら持ち合わせていないように。

 焦らしておいてから、『早くしろ』とばかりに素早い指示を出す。


「し、失礼します……」

 声も震えている。揺れ防止なのかスコートに左手を添え、右手で顔を覆いながらベッドの上へと上がる。足元を気にしつつ。

 当然『第一歩』は『徹から見える方』に。

 振り上げた太ももでスコートが持ち上がる。しかし何も気にはしていられない。ベッドの上は相・当・柔らかで、足首を取られそうになっているからだ。バランスを崩さぬようにゆっくりと上がる。

 朱美は『初めてのよう』に、一歩一歩を慎重に歩いていた。


 意外にもテニスシューズは履いたままだ。朱美は歩き続ける。

 徹からまだ『脱げ』の指示は来ない。今の『指示』は、寧ろ『テニスシューズ』ではなく、顔を覆う『右手』の方。朱美は迷う。


 酷い。朱美は恥ずかしくて『指の間』から覗き見していたのだが、それは許されない行為と知る。止む無く手を降ろすと、赤らめた朱美の顔が、照明で浮き彫りとなって行く。可哀そうに。

 相当恥ずかしいのだろう。しかし何れ『こうなる』と、心の何処かで判ってはいた。徹には到底敵わないが、それでも睨み返す。


 可愛い唇を震わせながら『徹をチラ見する』姿は、徹から見て『右手の置き場』に困っているとしか思えない。

 何せ徹からは、何の指示も与えていないのだから。悩め悩め。


 困ったことに『両手でスコートを押さえる』のも許されない。

 そんなの『徹の目』を見れば判る。何せ許されている『手の添え方』だって、指示が細かいのに。屈辱的な想いが増して行きながら、柔らかなベッドの上を歩き続けていた。

 右手の行方を考えた朱美は、やがて腰の後ろに回す。

 すると突然『朱美の利き腕』は、見えない『何か』によって、がっちりと『ロック』されてしまったようだ。


 徹の足元で朱美は両足を揃えて立ち止まった。

 直ぐに左手を後ろに回して胸を張る。指示の通りに。

 流石に『足の震えを止めよ』とは指示が来ない。徹もそこまで『鬼』ではないようだ。もし『さっきから膝を擦り合わせている』朱美に、『理由を説明せよ』と聞いたならば?

 それは『鬼』と言うより『鬼畜の所業』と言えるだろう。

 何はさておき。この『沈黙』は、徹の『鑑賞時間』が始まった証である。朱美から『不必要な発言』は、一切許されない。


 薄笑いで眺め続けていた徹だが、やがて静かに顎を引いた。突然の指示に驚き、迷い始める朱美の姿。徹は同情も無いのだろうか。

「……失礼します……」

 ある訳がない。もう誰にも邪魔させない。例え朱美自身でさえも。

 故に、恥ずかしそうに動き始めた朱美の姿を、上から下、下から上と舐め回すように眺めるばかりだ。

 朱美の歩き方がぎこちない。先程と打って変わって膝は距離を取り、もう既に膝頭の温もりは感じられない。それでも交互に繰り出される足の運びは、慎重に成らざるを得なかったのだ。

 徹は冷静を装っているが実際は息が荒い。朱美がモジモジすればする程、寧ろ『ご褒美』と喜ぶきらいが。それが『徹』という男だ。

 朱美は足を止めた。到着したのだ。『指定の位置』へと。


 もうこれ以上『指示』が来るのが怖い。『どんな指示』か判っているだけに。深呼吸しつつ、待つしか出来ないものなのか。

 ただ一言。『座れ』の合図が来るまでの間。徹さんの腰の上で。


 そう。徹さんに『紐パンの紐は飾り』と教えると、凄く怒っていた。引きちぎった紐を叩きつけて叫ぶ。

『バラバラにはならないなんて』と。いや別に『私のせい』じゃ無いんですけど? 買ったのは私だけど。

 お陰で『ちゃんとした仕様』に作り直す羽目になった。

 一枚づつ『正偽チェック』されて、全部チクチクし直すのだ。我ながらマメだな。でも『気に入った柄』もあったし、それに『未公開』のだって。徹さんがどんなを顔するのか、想像するのも楽しい。


 完成したと思ったら、次に見せられたのは不思議なタグ。

 特注の『DANGER』タグだ。こんなの、いつの間にやら。

 最初のカラーバリエーションは、基本赤と黒。それと黄色と黒の組み合わせ。地が赤で文字が黒とか。

 下着の色に合わせて、ちゃんとコーディネイトしている。

 これでやっと終わりと思ったら、今度は徹さんの指示で、紐パンだけでなく、『衣装の解ける箇所全て』にですって?

 取・り・付・け・ま・し・た・け・ど・ねっ!

 二人の間では、通称『デンジャー紐』として共通認識されている。


『座れ』

 遂に来た。最後の指示が。朱美はゆっくりと動き始める。

 両方の足を同時に曲げていると、徹の腕が伸びて来た。朱美の膝を支えるためだ。一時停止する。狙いが一本分外れてしまっていた。

 徹の『お手伝い』はそこまで。後は朱美の役割だ。二人の間で定められた『憲法』によって、そう決まっているのだから仕方ない。

 朱美は徹の指導に従い、シングルピックアップ。自ら抱え込んだ。


 スコートの中で『何』が行われているのか。徹は知る由もない。

 リセットされた『朱美との関係』は、未だ『再構築中』である。

 出会って間もない頃の朱美は徹に『見られること』は勿論『触れること』さえも出来ない、実に初心な娘だった。目の前と同じだ。

 ほら。自分でも『見えていない』はずなのに、下を向いちゃって。

 そこで一体『何』をこねくり回し、『何』を確認しているのやら。


「良いよ。おいで」「せ、せん、ぱい……」「ゆっくりぃ……」

 両膝をついて支えが要らなくなると、徹の手は太ももへと伸びる。

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