海底パイプライン(二十四)
徹の目付きが変わった。ベッドの『定位置』に寝転んで、横向きになる。朱美が良く見えるように肘枕となった。
すると朱美は悪戯っぽく笑うと、一応徹へ『希望』を確認する。
「徹さんは『コーチ』役?」「先輩で良いよ?」『先輩って……』
朱美はクスッと笑う。それでも『後輩らしく』振舞う。
徹と大学は違うし、どちらも『テニス部』ではない。それで『先輩』と言われても? 『人生の先輩』と言う意味にしかならぬ。
「判りました」「ライトの所で。うん。そこね」
ベッドの上から指示を出す旦那様。何の指示やら。
朱美は英国の『テニスサロン』で青春を謳歌していた。それに対して徹が、何処でテニスを覚えたのかは良く知らない。
一緒にプレイしたのは、徹のご両親と『ダブルス』で。そのとき徹は『得意だから』と、ずっと後衛だった。確かに上手だったけど。
「先輩『こんな感じ』で、よろしいでしょうか……」「片手でね」
徹の指示を待つことなく、朱美の『スイッチ』は既にオンだ。
表情も雰囲気も打って変わって。時計は無いが、今は午後六時半。
この季節の英国はまだ明るい。うっかりカーテンを閉め忘れた窓からは、明るい日差しが部屋を明るく照らしている。
今日、憧れの先輩と組んだ『混合ダブルス』で勝利を収め、これからお約束の『延長戦』が始まる。
朱美は悩みつつも顔を真っ赤に染めて、僅かに徹から視線を外す。
「あぁ、その『インナーパンツ』は良いや」「んもぅ」
両手を振り、右足を『ドン』とやって怒りを露わにする。
しかし朱美も考えて『そりゃそうか』とは思う。どうしようかと思案した挙句、笑いながら『タタタッ』と屏風へと走った。
さっきの演技と違って、実に思いっきりが良い。『パサッ』と小さな音がしたと思ったら、足をチョコチョコしながら戻って来る。
直ぐにテイクツー。ラケットは無いが、肩を回してリラックス。
足元に『テープ』も無いが『ライトの位置』を確認すれば判る。
ハイここ。間違いない。何しろ『真正面の監督』が、真剣な眼差しでお待ちである。何の拘りか『あと五ミリ右』の合図が飛ぶ。
朱美は素直に従うと、深呼吸して表情を変えた。再び目を逸らす。
左手は右手の肘に添え、震えながら伸ばした右手がスカートの真ん中を掴んだ。見られているとやり辛い。迫真の演技!
朱美の『シングルピックアップ』を観て、徹は満足気に頷く。
『やはり『シングル』だな。『ダブル』はいけない』と思いながら。
突然『昔のこと』を思い出して、目が鋭くなっていた。
『おにぃちゃぁぁん。ねぇ何してんのぉ? ねぇねぇ楓としよぉ?』
『馬鹿何やってんだっ! ぐしょぐしょじゃないかっ! 垂れて!』
『何かぁ止まんなくなっちゃってぇ。ねぇしよー。良いでしょぉ?』
『うわっしっかりしろっ! 楓、何だぁ? この匂いは? 臭いぞ』
『臭くないよぉ。良ぃ匂いじゃぁぁあん』『楓、ちょっと来いっ!』
『何何ぃ? 私の部屋ですんのぉ? 良いよぉん。楓ごっきげーん』
『しねぇよっ! うわっスゲェ充満っ! コレか? コレ何だっ!』
『貰ったのぉ。練習のときにねぇ? 使うんだってぇ。キャハハッ』
『本家で何やってんだっ!』『それは、ヒ・ミ・ツゥ。知りたい?』
『知りたかねぇよっ!』『えとねぇ』『良いから風呂に行くぞっ!』
『えぇ? お風呂沸いてないよぉ? お風呂ですんのぉ? 変態ぃ』
『頭を冷やすんだよっ。こっち来いっ』『お兄ちゃんはエッチィ♪』




