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海底パイプライン(二十三)

 徹はニヤニヤしながら、朱美が着替え終わるのを待っていた。

 富士山頂勤務から三カ月。朱美の素肌から『こんなにも長い間離れる』なんて、結婚したときには思ってもいなかった。人事部めぇ。

 今になって思えば『結婚前』だったら、最長でそれ位はあったかもしれない。ソワソワしながらも『楽しい日々』であった。


「朱美ぃ。まだかぁい?」「ちょっと待ってぇ。あ・な・たぁ」

 しかし結婚して、毎日朱美と過ごすようになってからの『この三カ月』は辛過ぎた。毎晩『朱美の夢』を見たって、覚めれば虚しい。

 しかも朱美から、結婚生活開始より『気分はリセットォ』とか言われ、『出会った頃の二人』へと強制的に戻されてしまったのだ。

 うむ。決して『悪い』とは言わない。寧ろ『良い』とも言える。


「何だったら『下着無し』でも良いよぉ?」「ちゃんと有りますぅ」

 あの恥ずかしそうにしている朱美の顔。堪らん。いやもう、想い出しただけでゾクゾクする。それにお尻をチョット触っただけで、『いやん』とか嬉しそうに言いやがって。『もっと来い』ってか?

 ベッドに押し倒してやる! もう夫婦なんだから、好きにさせて貰うぜっ! あぁあ。あともうちょっとで『元通り』だったのに。

 ハァハア。やっぱり許さん。クソ人事部めぇっ。『明日には戻れ』とか本当に何なんだ! そんなの『鬼畜の所業』ではないかっ!


「ジャーン! どう? 靴まで履いちゃったぁ!」

 朱美が全身『白』一色で登場した。良く似合っている。

 見た目は『何も知らない』お嬢様だが、動きは上級者そのもの。

 笑顔から一転。真顔で勢い良く走り込んで来たと思ったら、最後は軽くステップ。膝も腰も入れての豪快なショットを魅せる。


『ダダダッ。ブンッ!』「おぉっ」『ライン上に入っちゃった』

 揺れるポニーテール。表情から、どうやら『決まった』らしい。

 笑顔で控え目なガッツポーズ。小首を傾げながら、サンバイザーの位置を直した。そして『定位置』へと移動し軽くジャンプ。

 腰を落として構えた。白襟のポロシャツは襟がピンしていて、ひだ付きのスコートが揺れ始める。いやはや良い眺め。至福の一時。

 しかし白靴下に、テニスシューズまで白と、本当に白一色とは。


「イイネェ」「ちょっとぉ。何処見てんのよぉ」

 徹はベッドの端から身を乗り出し、下から覗き込むように『見学』していた。気が付いた朱美は恥ずかしそう。徹の視線が『突き刺さった』であろう箇所を急いで手当てした。ラケットを握っていた『もう片方の手』は? 徹の方に、思いっきり振る!

「おぉっとぉ」『カランカラン!』

 飛んで来たラケットだけ色違いだが、それはこの際どうでも良い。

 朱美だって別に、ラケットを徹にぶつけようとは思っていなかった。『オープニング小道具』として持ち込んだだけ。しかしラケットを失っても尚、『テニスプレイヤー』だと判る身のこなしは流石。

 但し『部屋』には全然マッチしていないが。まあ、それも何れは。


「良く見えなかったよぉ」「こんな感じよ? 見えたぁ?」

 朱美が正面を避け『一か所』を吊り上げた。笑っている。

「えっ、何そのパンツ? 全・然・色っぽくないじゃん?」

 は? 徹なら『もうちょっとコッチ』とか、言うのかと……。

「これは『インナーパンツ』よ? ちゃんと試合用なんだからぁ」

「何だぁ。そうだったのかぁ」「何だって何よぉ? やぁねぇ」

 肩を竦めてベッドの方へと歩み寄る朱美。するとお声が掛かった。

「ストップ」「!」「もうちょっとコッチでよろしくぅ」「!!」

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