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海底パイプライン(二十一)

 言い方。『何か』がおかしい。勝は首を傾げる。いやな予感が。

 静は時々『勘違い』をして、あらぬ方向に突っ走る傾向がある。


「朱美さんは『徹のお気に』なんだからさぁ。見りゃ判るっしょ?」

 すると静は首を横に振る。この『静の笑顔』はどちら? 横になって横に振ると『否定の否定』のような気がしないでもない。

 しかし人間は『縦横補正』が利くので多分『否定』であろう。

「心配しないで? 私がもっと『良い娘』、探して来るわよ」

 ほらね。静は知っている。人は逆さ吊りにしても、ちゃんと水が飲めることを。得意気に掌を上にして肩を竦めている。

 その手で勝の胸に『の』の字。静の『お気に』は、勿論勝だ。


「大層な『お嬢さん』らしいじゃない? 留学してたんでしょ?」

 朱美の父は、千葉の『ホテル王』とのこと。一般人の勝としては、『留学』と聞いただけで『=とんでもない金持ち』である。

 今のこのご時世『留学』と言えば、大陸の向こうにある同盟国『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国』であろうし。

 そんな遠くの大学に、使用人を付けて豪華客船で送り出す。考えただけで『雲の上』の人だ。別世界の人間である。

「只の『頭でっかち』よ。徹ちゃんに比べたら大したことないわ」

 静は鼻で笑っていた。徹がもし『グレートブリテン及び北アイルランド連合王国に留学したい』と言ったなら、駆逐艦を改装して送り出すに違いない。現に艦名は決めてあって『徹ちゃん号』だ。

 いやはや。どうやら『別世界』にも『色々な高さ』があるらしい。


「いや判るけどさぁ。ちょっと『静ん家』と比べちゃダメだよぉ」

「フフフッ。判ってるわよぉ」「ホントかなぁ」「大・丈・夫っ」

 勝の唇を人差し指で塞ぐ。静だって『徹ちゃん程』ではないが、『雲の種類』については心得ている。子供の頃から叩き込まれた。

 何しろ日本経済は、その八十%以上を財閥が回しているのだ。故に街を歩いていて、『個人商店』に出くわすことは殆どない。

 小さなタバコ屋から露天商、はたまた街頭の『薬売り』まで含めて、いずれかの『財閥の影響下』にあると言えるのだから。


「もし勝さんが『危険』と判断したらぁ」「おいおい。判断俺かよ」

「だって『責任者』じゃなぁい。ねぇ?」「まぁ、そうだけどさぁ」

「そのときは『あの薬』、使っても良いわよ?」「えっ、それって」

 思わず勝は黙った。『あの薬』とは、吉野財閥に伝わる『秘伝のお薬』であろう。そんな『やヴぁい奴』を家族に使うとは。

「ほらあれ。『記憶を失くしちゃう』奴でしょ? 大丈夫なのぉ?」

「体に『大した害』は無いって言うし大丈夫なんじゃないかしら?」

「いやいや。そう言うのって大体『アヘアヘ』ってなるんでしょ?」

「そうらしいわねぇ。実は私もね『噂』でしか聞いたことがないの」

 勝は眉を顰める。随分とお気楽に言っちゃって。薬を大切にする徹は、風邪を引いたときは先ず『前回貰った薬』から飲むようにしている。だから『品質は大丈夫?』と言わざるを得ない。

 ちなみに勝が風邪を引くのは、確か五年に一度あるかないかだ。

「成分調べられちゃうかもよ? 朱美さん『薬剤師』だし」「……」

 それには流石の静も押し黙る。静は『毒薬の調合』しか出来ない。

 しかし直ぐに『ニヤッ』と笑った。不気味に。勝は何かを感じる。


「大丈夫よぉ。どうせ直ぐ『ガバガバ』になって飽きられるからぁ」

 撫で回す静の手に勝は『確かに』と頷く。あれは遺伝したと思う。

「私は、ちゃぁんと『鍛えてる』けどぉ!」「それは凄く判るよぉ」

「嬉しいわぁ。でも私だって『鬼』じゃないの」「えぇ? 本当?」

「本当よぉ。ちゃんと伝授したのぉ。毎日継続できるかは、ねぇ?」

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