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海底パイプライン(十八)

 枕を握る手を引き締めて、朱美は大きく仰け反っていた。

 柔らかな枕に朱美の頭が深く沈み込んでいる。枕を掴んだ左手でベッドを激しく叩いた後は、耐えるようにそのまま震えるのみ。

 一方、徹の左手が攻め立てる辺りはと言うと、立てた膝を閉じ、肩幅に開いた足先、特に踵がベッドに突き刺さっていた。

 さっき盛大に濡らしたシーツが、破れそうな程の勢いで。


「この山の下に、『地下通路』があるんだよねぇ。一緒に行こうよ」

 原因は徹が朱美をいざなって、記憶を辿っていたからだ。

「入り口付近は波が高いけど、こんなに濡れてはいないからね?」

 朱美は枕を掻き分けて、何とか徹を探し出す。震える唇からは声も出ないようだ。徹が朱美の目を見て微笑む。

 さっきまでと同じ、優しい目をしている。朱美はコクリと頷いた。

 その直後、何かを思い出したのか、再び上を向く。


「途中で通路が左右に別れているんだよねぇ。向こう見て来て?」

 今度の『きっかけ』は、徹にしてみれば『普通のお願い』のつもりだった。お願いした徹は、朱美とは反対側を覗き込んでいる。

「イィィッ!」「そっち行くの? 良いよ?」「あぁぁっ!」

 会話になっていない。徹は『どうしたんだろう』と首を傾げる。

 説明はまだまだ続くのだが、朱美は『聞く気』はあるのだろうか。


「奥に『エレベータ』があってね?」「あっあっあっ」

「それで『上』に上がると、観測施設があるんだ」「あぁあぁっ」

 徹がエレベータに乗った瞬間、朱美が地下通路を逃げ出す。

 しかしそれを徹は『予測』していたのか、すんでの所で捕まえる。


「ちゃんと聞いてる?」「だめぇ」「ダメじゃないよ」「あぁっ!」

 押し戻す。あともうちょっとで『説明が終わる所』だったのに、その途中で逃げ出すなんて。全く。そんなの、許される訳がない。

 徹はエレベータに戻って説明を続ける。朱美は唇を震わせながら、何故か涙目になっていた。

 しかし『その先』の説明は、確かに『あと少し』だったのである。


「山頂には『丸いの』があってね?」「あああああっ!」

 徹の説明が『一時停止』している間、朱美は自由を謳歌する。声を張上げ髪を揺すり、まるで『バカンス』を楽しんでいるかのよう。


「丁度こんな感じのでね? あぁ色は違うよ? 確か『白』かなぁ」

 先生の説明が再開すると、急ぎ教室に戻って来た『生徒』のよう。

 息も荒く『勉強する振り』に余念がない。『聞いていました』と言わんばかりに何度も頷く。すると徹先生が『ニヤリ』と笑う。


「何があると思う?」「何が?」「そう。ココに」「あぁっ!」

 徹先生は簡単な『小テスト』を出していた。ちゃんと『説明』を聞いていれば、直ぐに判ることだ。もし判らなかったらどうする?


「ち、乳首です……」「何言ってんのぉ! レーダーでしょぉ?」

「あぁあぁっ!」「随分感度が良いレーダーだなぁ? 何処製?」

 朱美は答えられない。その理由は徹にも判った。左手の感覚で。

 徹は立ち上がる。ぐったりとした朱美を眺めていた。一部『黒い陰』になっているが、それは気にしないことにして。

 しかし朱美は、それを『凄く気にしている』ようだ。徹が再び足元まで来る間も、ずっと黒い影を凝視し続けている。

「まだ説明しないといけない『施設』があるんだけどね?」「はい」

「どうする?」「お願いします」「聞こえない」「お願いします!」

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