海底パイプライン(十七)
硫黄島は小笠原諸島の南部にある火山島で、扇形の地形。長い方が約八キロ、面積は約三十平方キロ弱と、小笠原諸島最大の島だ。
しかしそれは国土地理院の中だけの話。表には公開されていない。
ペリー提督が硫黄島沖でガリソンを発見して以来、島は『ガリソン基地』となっている。そのため島の住民は徐々に追い出され、今は海軍と、『ガリソンプラント』を管理する吉野財閥自衛隊が駐屯する、軍事基地と化しているのだ。勿論警備は厳しい。
民間用の航路も空路も無く、故に一般人は立ち入り禁止である。
また『航空機の灯台』となる電波塔があるものの『接近すれば迎撃されてしまう』という矛盾を抱えているという、危険な島だ。
そうは言っても島で戦闘が行われたことは無く、普段は渡り鳥だけが行き交う南国の温泉天国である。
まぁそれも『噴火が起きるまでの間ならば』という条件付きだが。
「ここに、丁度弓形の海岸があってね?」「あああっ、ダメェェ」
徹の説明は続いていた。朱美は苦悶の表情でもがく。
「砂浜の色はねぇ。こんなに白くはないな」「あぁっ、そこは!」
脇腹を舐められた朱美は、再び体をくねらせた。息も荒い。
懇願するように徹を見つめる。実は徹以外の男にはバレていないのだが、非常に弱い所であった。しかも今は特にだ。
「温泉もねぇ、結構あちらこちらで湧いていてねぇ」「お願い……」
「朱美、ちゃんと聞いてるぅ?」「はぃ」「何を?」「お、温泉?」
声も絶え絶えである。朱美は『枕を握る』ことを許されてはいるものの、『良く見えるように』と枕は『頭の下』にさせられている。
だから声も『何とか聞こえた』かに見えて、徹は大きく頷く。
「そう。温泉はね? ココとか」「あぁっ」「ココとか」「あぁ」
「この辺にもあったかなぁ?」「あぁあぁあぁっ、判ったぁぁっ!」
徹が唇で記した通りだ。島中で温泉が湧いている。海岸線でも、島の中でも。朱美は次々と『弱い所』を攻撃されて身悶えるのみ。
「本当に判ったぁ?」「はい。判りました」「じゃぁ何処?」
何処って? 朱美の目はそう語っている。『指し示す方法』が無いからだ。目を上下に動かして『手の平』の場所を交互に見つめていた。果たして『どちらの指』を使うべきか。それを考えて。
「判って無いみたいだねぇ。じゃぁもう一度説明s」「お願いっ!」
徹が顔を近付けると、さっきまで弱弱しかった朱美の声が強い。
徹はニヤリと笑い顔を近付けるのを止めた。ゆっくりと朱美を見る。別に『温泉の位置』を、再度説明するつもりは無かったようだ。
覚悟を決め切れていなかった朱美は、徹が何もしなかったのに、あからさまにビクついているではないか。勿論徹は逃がさない。
「説明嫌なのぉ?」「いえ、あのっ『温泉』は大丈夫です」「そう」
朱美は自分の裸体を見た。今まで下腹部を押さえていた徹の左腕が『動き始めた』のを感じたからだ。しかし徹の顔は胸の陰に。
「重要施設の説明ね?」「はぃ……。お願いし、ま、す……」
更に顎を引き、徹の左手、動き始めたその『行先』を追う。
「こんな感じで、海岸線が続いていてねぇ? おや、見ているの?」
徹と目が合った。優しい顔に戻っているが、その顔が上へヒョイ。
「ほら。これで見える?」「……はい。何とか」「続けるね?」
今度は感じ易いフェザータッチで。滑らかに。滑らかに。
「こっちからとぉ、こっちからとぉ」「あぁっ徹さん? そこはっ」
「でね? ここに丁度、『山』があるんだよねぇ?」「ああっイッ」
「判る? あぁでも『形』は『こっち』が似てるかなぁ」「ああっ」




