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海底パイプライン(十五)

「ハァ。ハァ。ハァ。何か、今日は、ハァハァ。凄く硬かった……」

 息を切らしている朱美。徹は朱美の髪を撫でてやっていた。

「そりゃそうだよ。久し振りだったんだから。良い子だ。おいで」

 もう一度キス。朱美は成すがままに。一呼吸置いて見つめ合う。

 すると既に、垂れた涎を気にする様子もない。ただぼんやりとした顔で徹を見つめるばかり。徹は『今か今か』と待ち構える。

 朱美の意識が遠のいて、『自由自在』になる瞬間を。

「朱美?」『ハァ。ハァ』「可愛い朱美」『ハァ。ハァ』「あっ」

 顎を撫でてやる。下から上へ。か細い首は小さな頭すら重たそう。

 上を向いたままの朱美を見て徹は確信する。後はもう『産毛に触れただけでも崩れ落ちる』と。上は力が抜け、下はなお痙攣中で。

 目は虚ろ。腕が徐々に下がって行くが、もう支えたりはしない。口をパクパクさせ始めた朱美は、徹を視界に捉えようとしている。


「楽にして良いんだよ?」「……」

 徹は天蓋を見る。朱美と一緒のつもりで。新婚旅行で経験した天蓋付きベッドを朱美は甚く気に入り、ならばと徹が準備したもの。

 ふと思う。あぁ『上からの眺め』は、どんなに素敵だろうかと。

 前から見ていても、実に美しい倒れっぷり。それは『お楽しみ前』の『お楽しみ』だ。さぁ、崩れ落ちる様を存分に魅せておくれ!

 徹は待ち切れなくなって指を差し出した。あと一押しのつもりで。


「……島の、こ、と……」「朱美? 大丈夫?」

 朱美は徹の方に倒れて来ていた。逆向きだ。しかも『島』って。

 フェザータッチの予定は急遽変更となり、徹は急ぎ朱美を抱きとめる。優しく声を掛けてはいるが、その内心は穏やかではない。

 徹は肩に朱美の顎を乗せた。左手で朱美の体を支え、右手で頭を支えるようにして撫で続ける。すると上目遣いに。実に恨めしそう。

 一瞬『チッ』と嫌な顔。これはあからさまだ。今度は横目に朱美を睨み付けた。東大卒の徹は頭をフル回転させ始める。顔も真剣だ。


 この『天蓋付きベッド』は前後左右は勿論、上からも高解像度カメラで録画中である。音だって高性能マイクで録音中。それなのに。


 つまり『下手なこと』は言えない。例えば『機密事項』とか。

 今日の朱美は『硫黄島』のことを知りたがっているが、それは『吉野財閥』にとって最高機密に属する。衛星写真でさえ非公開となっている硫黄島の情報を、そう簡単に教える訳には行かないのだ。

「会社で嫌なことがあったの?」「……そうじゃ、ないけど……」

 肩で息をしながらの答え。声も震わせながら。必死さが伝わる。

 徹には判った。『何か理由があってのこと』なのだと。朱美……。

「知ってどうするの?」「それは……」『ハァ。ハァ』

 徹は朱美の頭を撫でるのを止め、肩に手を添えていた。朱美……。

 すると『朱美の息』が、言葉と共に一瞬止まる。しかしそれは『息を整えている』ようにも。唾を飲み込む感触が徹に伝わって来る。


「それは、そのぉ。『一緒に行きたいなっ』て思って。キャッ!」

 朱美の目は『何か』を察して泳ぎ始めていた。『答え』も慎重に、言葉も選んだつもりだ。徹なら『賛成してくれる』と信じて。

 徹に抱き上げられた瞬間、すかさず笑顔へと変化させる。見られないように顔を逸らしていると、ふわふわ枕が。顔を埋めよう。

「徹さん?」「……」

 朱美は繋がったまま横に投げられて、九十度向きを変えていた。

 怯えつつ横目で徹の姿を捉える。可愛く枕をギュッと握り締めて。

 何だか『襲って来ない徹』が怖い。すると仰ぎ見た徹の目が、今まで一番鋭い目をしているではないか。これは、『何か』される。

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