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海底パイプライン(十四)

 愛しき朱美の裸体に腕を添わすんば、吸い付くばかりの感覚。

 壊してしまいたい衝動、此れ抑えるのに必死。胸に顔を埋めぬれば、狂おしきかな。吸って良し。弾いて良し。そっと触れるも良し。

 寄せる。揉む。弾く。響く朱美の美声は実に麗しきかな。

 徹が夢中、いや胸中に留まる間、朱美はまるで歌劇は歌姫の如くに。響くのは『阿』と『安』の。伸びやかに軽やかに。

 同じ『あ』か? にあらず。巧みに歌い分け、徹を夢とまごう安らぎの境地へといざなう。歌姫の由縁ここにあり。

 徹は左腕にて朱美の、か細き腰を巻く。驚く程に柔らかきかな。

 右腕は臀部を支え、いや、しっかりと下から握り締めていた。これまた何とも形容し難き柔肌かな。徹の大きな手を持ってしても、持て余すとは。朱美、手に余るは許し難し。徹は咄嗟におもほふ。

 見れば朱美は『許したもう』と願うばかりか。小首を傾げたその顔に、今は笑顔無し。口は半開きであるも歯を見せぬのは、未だ『正気』を保つかの如しか。息荒し。いつの間にか『歌』も鳴り止む。

 否否。徹は朱美の全てを知るに至れり。こは『物欲しげな顔』よ。

 接吻一つで正体を明かさざる。徹が腕に、力入るを感じ天を仰ぐ。

 勢いに髪、行燈の明かりに輝かん。揺れるは煌めく波の如し。

 やがて波治まりて、白き寝台に届くかと思わん。徹許さじ。再びの揺れ。されど波と見紛う。妖しく踊る髪が腕に触れてこそばゆい。

 徹、朱美を抱いて引く。押す上げる落とす。繰り返し。時折の横揺れを挟み、再びの突きは強く勇ましく。朱美の歌、二番か。

 ここで何を突き上げたかは言うに及ばず。鸛乃飛翔。鳴り止まぬ『以』と『伊』のざわめき。朱美の喉、張り裂けんばかりに。

 時折混じるは『為』か? さにあらん。『井』なり。徹の口付けは一時の静けさ。突き上げて『以』引いて『伊』。胸中で踊る舌。

 やがては朱美、只の『雌』と成りにけり。落ちるは『井伊』か、はたまた『伊井』か。膝を折ると、その美脚は徹を強く抱え込む。

 上下動の抵抗か。されど徹の腕力には抗えず勢いのままに。遂には腕を徹の背にて繋ぎ止め、胸を徹へと密着せしめたり。摩擦よりて勢いを止める算段、あからさま成り。これ徹には全てお見通し。

 徹、したり顔で息を吸う。そもそも朱美の弾力有る豊胸は、徹の胸筋の上では円も同じ。跳ね返りはすれど、摩擦の役には立たぬ。

 ほれ見たことか。弾け飛ぶ乳房は、哀れ徹の口にて捉えられ候。

 朱美、後悔の内に『阿』と『安』に戻らざり。今更に懇願するも、徹許さじとばかりにもう片方へと食らい付く。最早これまで。

 最後の力、渾身の力を両の腕に込め、徹の肩を押すに至る。仰け反る朱美の裸体。飛び散る汗が煌めく。苦悶の表情とは対極の美。

 徹、腰に残りし布地を切り裂く。続いて投げ飛ばすも、その行方は追わず。見よ、勢い正に天女の羽衣、舞うが如し。風も無くゆるり落ちにけり。ただずぶ濡れの下部を除ひて。そは寝台の角に掛かりて、ぬるり落ち行く。光るは何の煌めきか。朱美のみぞ知る。

 暫時の間。朱美、真に逃げずんばこの時を以て他に無し。されど現実は徹の左手、朱美の腰を押さえて離さず。寧ろ片手故、強き力で逃す気も無く。お陰で朱美、大きく息を吸うがやっとか。

 只その一息。やがて来る絶頂に備えての事になるとは、この時夢にも思わず。ただ徹の眼前にて胸、膨らませたもうなり。

 時は来た。徹の五肢、今日日随一の力を込め、朱美を揺さぶりに掛かる。寸刻前、徹の腰に合わせし調子は影も無く。一糸纏わず身となった今は、触れる柔肌全てが享楽を与えしに至るのみ。

 徹一声。只『以』のみ。強き調子で。腕絞り高く突き上げながら。

 呼応する朱美は何度目かの『以』なり。意味無く互いに素。

 広き寝台の上、煌煌と照らされた徹と朱美。今は一塊と成りて小さき姿に。されど互いの声、嬉々として絶叫と相成りん。すわ硬直。

 やがて見つめ合う顔。穏やかな笑顔戻らん。ゆるりと長き口付け。

 互いに溢れ出た温もりの行先はそのままにして、確かめもせず。

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