海底パイプライン(十三)
『お義母さまから、せっかく『秘儀』を、授かった、の、に……』
仰け反りながら『落ちる感覚』が全身を襲う。悔しい。『毎日の特訓』とは一体何だったのか。『楓チェック』の意味。惨めだ。それもこれも、全ては今日のこのときのこの瞬間のため、なのに……。
「ハァ、ハァ、んっ、ハァ、ご、ごめんなさい私……。先に……」
まだ全身が痺れている。徹は『こんな私』を許してくれるかしら。
「良いよ。凄く良い」「本当?」「本当だよ」「良かった……」
朱美は離したくない。急ぎ息を吸って、吐いて。何とか。何とか。
作り笑顔で再び徹にしがみ付く。こうしていれば、徹は何処にも行かない。はず。まだまだ『徹の女』で居たいから。
腕を回すのがやっと。もう力不足だ。足はダランと伸ばしてあられもない。五分前の徹には、とても見せられない姿に成り果てて。
お願い。振り返らないで。あぁ口付け。これなら安心。もっと。
『さて、これからは『ボーナスタイム』かな……』
朱美の肩と腰に手を。涎を垂らした朱美は、ぐったりと大人しい。
真っ赤だったデコルテと頬は、今は少し落ち着いている。意識して『黙っている』のだろうが、表情も体も、実に判り易い。
正直危なかった。ぶちまけたなら『どんなに』気持ち良かっただろうか。そんな後悔も。いやいや。この朱美を見ろ!
朱美となら『何度だって最高!』に、決まっているではないか。
「起こすよ。おいで」「……」
今日の朱美は確かに朱美であるが、朱美であって朱美ではない。
決して『何処で覚えて来た』なんて聞かないが、それにしても『全てを吸い尽くす』とはこのことだ。意識が半分飛んだであろう『今この状態』でも止まらずに動き続けている。心地よい。実にイイ。
「美しい……」「……」
常に『価値ある女』であろうとしているのが朱美だ。素晴らしい。
だから『玩具にされる』なんてのは本意ではないだろう。何しろ『愛される存在であり続けようとする努力』を欠かさないのだから。
勿論その笑顔も。困り顔も、仕草一つでさえも、気品に満ちて。
「ゆっくり。そう」「……」
反り返ったままの朱美。太ももに掛かる温もりが増すに従い、手がだらりと下がって行く。もう力が入らないのだろう。
頭がベッドから離れるにつれ、乱れていた髪が整って行く。そんな緩やかな曲線美を描く朱美の上半身を、左右のライトが照らしていた。首を傾げた朱美の顔。今だ恍惚。思わず見惚れてしまう。
なにしろこの手の中に、『美の基準』があるのだ。温もりまで。
「行くよ?」『ハァ』「待ってお願い。まだ……」「だぁめっ」
髪が背中で整う段になって、朱美が寄り掛かって来た。
朱美の両手が背中からベッドへ。しかし徹はそれを許さない。すかさず巻き取って、その腕ごとしっかりと抱きしめる。
朱美にだって、これから『何が起きるか』を、理解できるだろう。
なにしろ『ここからの朱美』は、実に可愛い声で啼くのだから。
「ねぇ徹?」『ハァハァ』「……島のこと、なんだけdアァッ!」
徹の動きが一撃で止まった。朱美が必死に訴えていたからだ。
ハッキリ言えば、徹は今の言葉を『聞かなかった』ことにしたい。
今このタイミングが、朱美にとって『最高の瞬間』であると、信じて疑わないからだ。それ程に『徹にとって朱美』とは、全身全霊を掛けて『全てを打ち込むべき存在』であるからだ。力を込める。
「……私にも、教えて欲しいの……」「判った」「あああっ徹っ!」
今の一言は、徹の『琴線』に触れた。朱美は反り返って踊り出す。




