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海底パイプライン(十一)

 朱美はスリッパを引っ掛けて、真っ直ぐ洗面室へ駆け込んだ。

 鰻の臭いを打ち消すためである。これからベッドインするのに、キスをしたら『鰻の味がした』なんて、言われたくはない。

 元々鰻は好きだし、徹は気にもしないだろうけれど。


『待っててね』

 鏡越しに徹に伝える。すると鏡に映ったイブニングドレスに乱れが。抱き抱えられたときに、皺になってしまったのだろうか。

 パパっと直す。さっきまで散々『お預け』したのだ。もう『ドレスの構造』も把握したことだろう。艶出しリップで仕上げ。

 この後はベッドに倒されて、足首から徹の手がスルリと来るのは確実。いやもしかしたら『持ち上げさせられる』かも? 半々。


『バタン』『カチッ』『カチャン』

 あっ扉を閉めた音。ふふっ大丈夫。逃げたりなんかしないのに。

 何しろチャンスは『今夜しか無い』のだから。徹ったらそわそわしちゃって可愛い。判るこの感じ。『ハネムーンのとき』と同じだ。


『ああん。もうちょっと。向こう見てて』

 思い出す。チェックインして部屋に案内されたときのことを。

 浴室の注意事項を聞いた後、鏡で化粧を直していた。その間にベルボーイが出て行く。徹がお辞儀の後、ダッシュで鍵を掛けて。

 徹は夕食前に『デザートから頂く』のが流儀らしい。手が速いったらない。そう。あっという間。服なんか脱ぐ暇もない程に。


『もうっ! 見ると思った。向こう見てて!』

 それでも結婚前にしていた『戻る約束』はしっかりと覚えていたのは褒めてあげる。恥かしがる態度を示せば、初めてのように凄く優しかったし、『前からだけ』なんて約束もちゃんと守ってくれた。

 でもまるで『中学生の男子』みたいに、なっちゃったけど。

 今日はどうかしら。


「お待たせ。あらダメよ。恥ずかしいっ」「見てないよ。何も」

 変らないかも? 嘘の方から上手になっちゃって。

 新妻に『蜜の味』を散々教え込んでおいて『山籠もり』しちゃうなんて、なんて罪深い夫なのかしら。許せなくてよ?

「もう。秘密なんだからぁ」「判ってるよ。じゃぁ『こっち』は?」

「きゃっ」『バフッ!』

 軽く押された朱美はベッドの横から倒れ込む。背中からのダイブ。

 キングサイズのベッドは、朱美の全てを受け止めるに十分な大きさがある。柔らかな感触。徹は暫し眺めていた。朱美の全身を。


 腕を軽く広げた受け身の姿勢。背中まで伸びた髪が、今は白いシーツの上に広がっている。そのままピクリとも動かなかった朱美だが、徹と目が合った瞬間に、恥ずかしくなったのか目を逸らした。

 広がった髪とは反対の方。やや上を見るように。呼吸が速くなる。


 両肩を露わにした黒のドレス。胸から下は、細長い布地が複雑に絡み合うような仕立て。どこをどうすれば『朱美に辿り着けるのか』が楽しみだ。間違いがあってはならぬ。構造についておさらいを。

 呼吸で波打つ黒のドレスを、上から下、下から上へとじっくりと観察。すると朱美の左目と合う。口が細く開き、唇が細かく揺れて。

 それでも朱美は徹を見つめていた。やがてゆっくりと目を閉じる。


 ベッドに膝をつく。もう片方もゆっくり。朱美は微動だにしない。

 そして片肘。すると朱美が息を止めて振り返った。眩しい。

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