海底パイプライン(七)
「へぇぇ。静さん、NJSって言えば、家の系列でしょ?」
勝が言う『家の』とは『吉野財閥』のことだ。
弓原家は元々『吉野一族』ではないが、現当主の末娘である『静』に見初められ、一代限りで『一族扱い』となっている。
「そうよ。まぁ、重電の子会社だから、孫みたいなもんね」
それもまぁ、一族の血統を守るべく『外部の血』として迎え入れられたようなもの。担当役員になれたのもそれが理由だ。
静の娘である楓は、生まれながらにして『当主の許嫁』である。
「誰か知っている人、居ないの? 家のシステムってNJS?」
静に聞くと考え始めたので、『居ないのか』と思って徹に聞く。
「いやっ、俺に聞いても知らないよ。マジで聞いてるのぉ?」
徹が手をブンブン振って大笑いだ。勝もつられて笑うしかない。
「いや、俺も『そっちの畑』じゃないからさぁ……」
現場監督からの叩き上げである勝は、『パイプライン・構造のプロ』ではあるが、細かい制御の話はコンピューター任せだ。
まぁ『人力』ではやり切れなくなってシステム化したのだから、『理論』については詳しい。しかしそれを、どうやって実現しているのかは手を離れてから既に久しい。
「だとしても、聞いたこと位はあるでしょう?」「徹さん。いいの」
徹に指さされてしまっても、勝は返す言葉もない。笑顔の朱美に止められて、徹も穏便な内に収めた。朱美は笑顔を勝に振舞う。
「だって一杯あるからさぁ……」「そうですよねぇ?」
コンピューターシステムを取り扱う会社は、別にNJSに限ったことではない。吉野財閥には、幾つかのシステム子会社がある。
それは元々会社毎にあった『システム担当部署』が、社内で構築されたシステムを御守りする子会社として分離された会社だ。
今ではそれらの多くがくっついたり離れたりしていて、勝じゃなくても『誰か何とかして下さい』な状況にあるのだ。
「で、誰か知ってる? NJS? の人でさぁ?」
社名の先頭に『吉野』と付いたり、略称の『Y』が付いたりしていて大抵は『判り易い』が、NJSだけは初代社長が変わっていたのだろう。『吉野』も『Y』も付いていない。
何しろ『日本情報処理株式会社』なのだから。そのまんまやないか。社歌も初代社長の作とか。
「居ることは居るのよねぇ。一人……」「えっ? そうなの?」
家電部門を源流とするNJSは、石油部門とは余り関係がない。
だから普通の会社だったら、『会計システム』とかの担当で居る可能性はある。硫黄島には経理部も総務部も居ないけど。
「でもねぇ。性格にちょっと難があってねぇ? 癖も強いし」
それでも『軍事部門』に一人、思い当たる人物の名前が。
「静さんを悩ませる程のぉ? 誰なの? 朱美さん、知ってる?」
「さぁ? 私に聞かれましてもぉ」「そうだよ。知ってる訳無いよ」
若い二人は顔を見合わせて苦笑いだ。
「うーん『イーグル』って言うんだけどねぇ? これがまたぁ……」
「あっ! 知ってます! 私に『やらせろっ』って、言ってた奴!」
朱美の明るい一言で、場の空気が一瞬にして凍った。




