表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1193/1534

海底パイプライン(五)

 言い出しっぺは朱美だが、話題が明後日の方に行ってしまって一人取り残されてしまった。愛想笑いにも嫌気が差す。

 感の良い楓のことだ。もう大人だし、何処に行ってしまったのかは知らないが、何かを察して席を外しているに違いない。


「あの子『塾ってレベルが低いからもう良い』って止めちゃって」

 急に『行きたい』とごねたら『辞めたい』も急であった。

 静は思い出して、呑気に『クククッ』と笑っている。


「大体『家庭教師』付けてんのにさぁ、塾行く必要性がないんだよ」

 徹が肩を竦めて補足すると、勝が箸を持ったまま手を上げた。


「単にさぁ、家から外に、出たかっただけなんじゃないのぉ?」

 静から『お行儀が悪い』と睨まれて、急いで漬物を摘まむ。

「どうせ『車で送り迎え』なのにぃ? 買い食いなんて無理だし」

 徹が箸を持って振り回しながら笑う。母親の睨みは効かないのか。

「そうよねぇ。先生『車中で講義する』って言ってらしたような?」

 しかし肝心の静が、箸を持ったまま考え中である。勝は漬物をポリポリしながら、『何だよ俺ばっかり』と思う次第だ。


「でさぁあ? 何の話をしていたんだっけ?」

 話題を変えようとしたのは、漬物を飲み込んだばかりの勝だ。

 朱美はここぞとばかりに、直ぐ『硫黄島』と言いたい。しかしそれは『情報をせびっている』と思われる可能性を鑑みて言えない。


「ほにょにょ(ポリポリ)……」「い(ポリポリ)……」

 静も徹も漬物を口に運んだばかりのようだ。何か言いたそうにしているが、口を押えて良い音をさせるばかり。

 そのまま二人揃って頭を振り、朱美の方を何度も指す。勝は『親子でそっくり』と思いながら朱美の方を見た。


「えっ、私? ですか?」

 目が合った朱美は日の浅い家族として、ちょっと慌ててみる。

 すると全員が頷いて、申し訳なさそうにしているではないか。


「あぁ『硫黄島の娯楽について』でしたっけ?」「そうそう」

 まだ歯の間に漬物は残っている徹から、直ぐに援護射撃が。

 朱美はホッとして徹に笑顔を返す。ご褒美に足を揺らし、スリットから太ももをチラつかせば、笑顔の徹は眉毛をピクリとさせて。


 黒い衣装から垣間見える、むっちりとした太もも。流れるような曲線に導かれて視線を送れば、ふくらはぎまでくっきりと。

 ハイッ。そこまで。これ以上はテーブルが傾くので『お預け』。

 漬物を飲み込むには十分過ぎる量の『唾液』が分泌されたはず。さぞや『ゴクリ』とスムーズに飲み込めたであろう。


「まっ、『歓楽街』みたいなのは、全然無いねぇ」「ええっ?」

 勝の声が右耳へダイレクト・インしたことによって徹が振り向く。

「そうよぉ? 若い娘が一人で行ったら、もう大変っ!」「まぁ」

 同じく朱美の左耳に静の声が。勝も静も『味噌汁の揺らぎ』から、テーブルの下で『何』を見学していたのか気が付いたのだろう。

「島にいる『女の人』は、確か食堂のおばちゃん一人だしねぇ」

 静の説明に目の色を変えた朱美が、思わず口を押えて問う。


「まさかその方が、皆さんの『お相手』を、なさるんですかぁ?」

 再び静寂が。しかし朱美が『気まずい』と思うのは一瞬である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ