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海底パイプライン(二)

 朱美はゆっくりと酒を注いでいた。盃と徹を交互に見つめながら。

 受ける徹の方はと言うと、こちらも同じだ。朱美の瞳と胸元を交互に覗き込む。盃なんて見ているはずもない。


「酒の一滴は血の一滴だぞ?」「判ってるよ。もったいないぃ」

 勝が鰻を飲み込んでから指摘。笑っている。

 言葉通りに徹は左手を先に舐めた。盃の下に構えていたので、床になんか一滴たりとも飲ませてはいない。

 盃を目線より上に掲げ、一気に飲み干した。それはもう良い飲みっぷりで。当然だ。下界に降りたら『酒と女』に決まっている。


「ホホホッこの子ったら『どこ』見てたんでしょうねぇ」『ブッ!』

 当然『谷間』と判っての指摘だろう。左手が再び酒まみれだ。

 すると朱美も下を見て『あらっ!』と、今更気が付いたのか。パックリと開いた胸元を左手で隠し、優しく徹を睨み付けて微笑む。


「もう。徹さんたらっ。大丈夫ですか? これ、使って下さい」

 それも束の間。別に夫婦なんだし、それこそ見た所で減るもんでもない。再度公開して、左手で自分のお手拭きを徹に差し出した。


「い、いいよ。いい」

 徹は朱美の好意に甘んじていた。勿論『手拭き』ではない。

 自分のを探すのは、見学しながらでも出来る。右手の盃をテーブルに置いて、自分の手拭きを使おうと左手を口から離した瞬間だ。


「もう、酔っちゃったんですかぁ?」

 朱美の顔が目の前にあった。左手に柔らかな感触も。

 見なくても『手を拭かれている』と判るが、一瞬手元を見た。しかし朱美がそれをも許さない。『見るところが違うでしょ』と言わんばかりに更に近付く。徹は思惑通り釘付けになっていた。

 真下に来た胸元と、それが当たっている感触と。更には息が首元に掛かると、くすぐったくもあり心地良い。

 今日は髪を結んでいる朱美。だからだろう。露わになった白いうなじからは、甘い香りまで漂うではないか。

 落ち着け俺。ここは深呼吸だ。目の前の超極上々上玉は俺の嫁!


「そ、そんなことないよ」「そうぅ……」

 ゆっくりと瞬き、潤んだ瞳には徹の伸び切った何かが映り込む。

 手を拭き終わった朱美は、何故か切なげに自分の席へ。徹を見つめたままだった。椅子に座り直す間も、伏し目がちに微笑みながら。

 徹は見とれているだけで気が付かない。しかし静には判る。


「朱美さぁん? もう少し飲まさないと、ダメみたいねぇ」

 妙にゆっくりと喋る。身をよじらせて踊るように。

 言い方からして『ふざけている』のは当然として、朱美と徹を交互に見ながら『然も残念』な調子で。手元に扇子があれば、パッと広げて口元を隠しながら言っているに違いない。


「はい。お義母さまぁ。徹さぁん、すごぉく、お強いみたいでぇ」

 静の大波が朱美にも伝わる。朱美まで体をくねらせ始めた。

 右手を顎に添える姿が可愛らしい。まるで娘として『静に相談する体』でいるが、合間にはチラっと徹を見つめている。

 その後は『誰のせいなんだろう』と、静と朱美は勝を見つめた。


「んん? あぁ、俺の遺伝かなぁ?」「困るわぁ」「お義父さまぁ」

 徹はやっと判った。『酔った』と言えば『直ぐに解散』だったと。

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