アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十七)
『プルルルルッ。プルルッ』『今、出ました』
掛かって来るのが判っていたかのようだ。勿論『しょーもない電話』が、である。高田部長は先手を取られて悔しい。
「おっせぇよ。判ってんだったらベルが鳴る前に取れよ」
無茶を言う。着信した回線のランプが先に点灯する機種であれば、着信音が鳴る前に取ることも可能だ。周りは『はぁ?』となるが。
「何、無茶なこと言ってるんですかぁ……」
しかし今使っているのは黒電話である。当然『ランプ』なんて代物は何処にも無い。呼出音が鳴る前に受話器を取ることは不可能だ。
「俺が若い頃はなぁ、出来ないと先ず『蹴り』が飛んで来たんだ!」
時代だろうか。高田孝雄が腰の低い『幼気な新人』であったころは確かにそんなこともあった。今では考えられない。
若かった高田孝雄はそんな蹴りをヒョイと避けると、涼しい顔でバキっと折ってしまったのだ。周りが『今度の新人は叫び声が年寄っぽいなぁ』と思って振り返る。
すると叫び声を上げているのは『部長だった』という落ち。
部長が退院して来るまでの間、自らを『部長代理』と称して部を取り纏め、『態度は既に部長級』と言われる。
しかし実力でも既に『部長級』であった。
先輩である課長達を、文字通り実力で押さえ付け(空手的)、見事売り上げを三倍にして見せる。これではぐうの音も出ない。
扱い辛くなって、本部長主任の下に押し付けられる。これで『大人しくなる』なんて思ったら大間違い。寧ろ悪化してやりたい放題だ。
因みに足を折られた部長の末路については、余り知られていない。
知られていないと言うか、完全に忘れ去られたと言うか。当時勤続十五年だったにも関わらず、何故か社内に記録が一切無いのだ。
入院している間に社員名簿からは抹消され、当然のように医療保険証も使えなくなってしまっていた。その上、給与振り込み口座は勝手に解約されていて、お陰でクレジット契約も停止となる。
驚いて市役所に行ってみれば、何と戸籍まで抹消されているではないか。正に『私は誰』な状態になったと言う。完全にお手上げだ。
今では考えられない。
『高田部長は『鼻糞』飛ばして来るじゃないですかぁ』
牧夫も高田部長の武勇伝は知らない。
例え知ったとしても、今更驚いたりはしないだろうが。
「全然平和的だろ。何だったら煎じて飲めよ。シャキッとするぞぉ」
煎じて飲むのは『爪の垢』だった気がする。何れにしても『火を通せば安全』という代物ではない。断じてお勧めはできない。
『あぁ小瓶に溜めといたら、奥さんに捨てられましたよ』「……」
ここに一人、本当に『飲もうとした奴』が居たらしい。滅多にないことだが、これには思わず言葉に詰まる。
「後始末済んだら『打ち上げ』に行くからな。早く来いよ」
「あのぉ、今日はちょっと用事がぁ」「お前に拒否権は無い!」




