アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十六)
「作戦終了のようです」「良し。じゃぁ直ぐに『証拠隠滅』だ」
悪びれもせず堂々とした態度。指示も的確だ。流石である。
朱美が振り返って高田部長を見た。その顔はどうやら違う。褒めてなんていない。この上なく呆れた顔である。
後ろの富沢部長と顔を見合わせてみれば、やっぱり同じ表情だ。この場合『呆れる』が正解のはず。多数決では。
「早くしろっ! 終ったら打ち上げだぞっ!」
確かに『証拠隠滅』は素早く行う必要があるだろう。
だから指示を出す方は真剣な顔つきである。が、それも一瞬のみ。振り返る直前には『ニカッ』と笑ったではないか。
高田部長が黒電話に向かったのを見て、朱美と富沢部長は肩を竦める。何のこっちゃ。
「良いのかしら?」「良いと思う」「ホントォ?」「うん多分」
朱美と千絵が顔を見合わせて囁く。
そう。目の前には軍から派遣された千絵も同席しているのに。なのに『証拠隠滅』だなんて、本当に大丈夫なのだろうか。
「だってホラ、大佐寝てるし」「そういう問題?」
千絵は軽く頷く振りをして、顎で『大佐』を示した。
「大丈夫? あれ。もう死んじゃってるんじゃない?」
朱美も一応心配してみる。自分には関係ないが。
司令官席に陣取っている依井大佐は、作戦が終わったと言うのに突っ伏したままだ。ピクリともしない。
だからある意味『大丈夫』とも言えるが。千絵は笑う。
「あぁ、もし死んでたら『中将』になれるから良いんじゃない?」
「それって凄いの?」「凄い凄い」「そうなんだ」「家族も喜ぶし」
千絵は生前の大佐から、『イーグルには逆らうな』と厳命されていたのだ。色々面倒だし、ここは素直に従っておこう。
「じゃぁ、パッパと証拠隠滅しちゃうね」「よぉろぉしぃくぅ」
二人は納得して笑顔になった。やはり作戦終了は嬉しいようだ。
使い古された『極秘・ひみつのてじゅん』と書かれた手順書を取り出した。訓練した通りに『秘密のコマンド』を入力して行く。
「データ吸い上げ一丁あがりっ!」「早いねぇ」「まぁねぇ」
ドヤ顔の朱美を見て千絵は笑う。別に朱美が凄い訳ではない。回線が太いだけだ。
「後はログの消去っとぉ」「全部消しちゃって大丈夫なの?」
パシッとキーボードを叩いてコマンドを投入した。
変な独り言を聞いてしまった千絵は、心配そうに確認する。すると朱美が不思議そうに振り返った。
「消去?」「そそっ。だって後で分析とかするんじゃない?」
何だそんなことかと、朱美の顔が笑っている。
余計心配した千絵は、上司である富沢部長の方を見たが、やっぱり同じように笑っているではないか。
「別に『消去』って言っても『都合の悪い所』だけね」「そそっ」
朱美の説明に安堵したのか千絵の表情が和らぐ。
「何だ。じゃぁいっか」「そりゃそうよぉ」「だよねぇ」
全体の整合性は人工知能三号機にお任せだ。




