アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十五)
「この辺で良いだろう」「捜索終わりですか?」「あぁ」
瓦礫の山をほじくり返す作業を、早いトコ終わらせたかった。
そんな理由では無かろうが、近い所はある。作業を続ける誰もが判っていた。敵の本拠地は、既に『もぬけの殻』であったことを。
「良しっ! 撤収するぞっ!」「終わったぁぁっ!」
山岸少尉の一言は『作戦の終了』を意味する。
声だけでなく、大きく手を振って引き上げを示す。それを見た伝令が四方へと勝手に走り始めた。
「おぉい。終わりだってさぁ」「おぉ、やっと終わったかぁ」
「早く帰って飯にしようぜぇ」「腹減ったなぁ」「夕飯何かなぁ」
伝令が走るにつれ、気の抜けた声が聞こえて来ては、動かす手が止まって行く。遂にはダラダラと歩きながら集まって来た。
「いやぁ、随分やられましたねぇ」「うむ」
田中軍曹は既に『感想戦』へと突入していた。
見渡せば残骸だらけだ。一見『無傷』に見えて、首だけ無くなってしまった自動警備一五型をはじめ、横転して起き上がれなくなった奴らも多々。部品が欠損した複数の残骸を集めると、実は『こんな形だったのか』と判る始末だ。
訓練と実戦では大違いと言うのを示した好例と成り得るだろうが、一応『秘密兵器』という扱いになっているのでその辺の扱いは微妙。
「被害は甚大だなぁ」「こんな風になるなんてなぁ」
たなっちときよピコにしてみれば、普段から取り扱っている兵器であるからして、その性能、威力は理解していたつもりだ。
だから、もっと『圧勝』出来ると思っていた。
「全部、こいつが悪いんだっ」『ガッ』
山岸少尉が足元の『ドローン』を思いっきり蹴っ飛ばす。
相手は調和型無人飛行体の残骸だ。
「いってぇ」「少尉殿っ!」「大丈夫ですかぁ?」
折角『無傷』だった御身なのに、足を痛めてしまったらしい。
蹴った方の足首を抱えて、ピョンピョンしているではないか。
「ちっきしょぉぉっ! こいつめぇっ!」
もう一度『蹴る』と思いきや、そうではなかった。
しゃがみ込んで残骸を持ち上げると、振り回し始める。
「あぁ、危ないから止めましょうよ」「爆発しますよっ!」
止めるのも聞かずに尚も振り回している。
そう。被害の多くは、調和型無人飛行体の機密保持用に仕掛けられていた『Cー4』が、想定外の振動を受け、起爆してしまったことによるものなのだ。明らかな欠陥。要報告だ。
「うおりゃぁぁぁっ!」
彼らは『山岸少尉の本気』を確かに見た。
弾が飛び交う戦場では後ろで、安全が確保されてからは先頭に立ち続けていた男が放つ、戦闘終結後の渾身の投てきを。勢い良く横回転しながら放物線を描き、廃ビルの壁に『ゴンッ』と当たる。
その時点で山岸少尉は背を向けていた。手の埃を叩きながら歩く。
『ドゴォォォォォォォンッ!』『うわっ敵だ!』『何だぁっ!』
山岸少尉は一人、驚きもしない。寧ろその表情は清々としていた。




