アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十四)
「抜けたっ!」「やった!」
ヘリは水を得た魚のように自由な世界へ飛び出した。
少々傾いてはいたものの、それでも隙間を上手くすり抜ける。今更だが何処か擦ったかもしれないが、飛んでりゃ勝ちだ。
「一旦上昇っ、ぬうぅぅっ」「無理すんなよっ!」
そのまま高度を上げていく。もう地面スレスレは御免だと言わんばかりに。燃料も切れそうだし、煙は出てるし、良いことは何もありゃしない。高度を上げると直ぐに黒田は辺りを見回し始めた。
「えぇっと、『ガリスタ』は何処だっ」
それを聞いた黒井は、幼子の言い間違いかと思い笑う。
「ガソスタじゃねぇのかよ。あっ、良いのか」「合ってんだろ」
黒田が笑っている。日本では『ガリソン・スタンド』なので正しい。黒井は必死になっていたので忘れていた。
しかし直ぐに、それも間違いであることに気が付く。
「ヘリはジェット燃料だぞ?」「ジェットじゃねぇのにぃ?」
黒田は顎を突き出して不思議そうな顔。黒井は渋い顔になる。
「良いんだよ。まぁ、要するに灯油だ」「灯油かぁ」
ここは専門家らしく『ケシロン』と言いたい所だが、そこをグッと堪えて『灯油』で説明する。間違っちゃいない。
日本語の灯油が一般的なだけで、成分は全く同じだ。
「ありゃぁ。はて。あるかなぁ?」
腕組みして考え始めてしまった。そんなに考えることか?
黒井はフッと鼻で笑ってから慰める。
「まぁガソリンでも、一応動くけどな」
今度は専門家らしく、得意気に言ってみせる。竦めた方の横に左手を添えて。ちょっと振り返った黒井だが、前を見ている。
黒田にしてみれば『知らなかった』だけなのに。目の前で、そこまで嫌みったらしくされてしまっては黙っちゃいない。
お返しに『フンッ』と、鼻息を黒井の方に吹き掛ける。
「ざんねぇん。ブッブゥゥ。正解は『ガリソン』なぁ」
針小棒大。ちょっとした間違いに、いちいちムカつく言い方だ。
確かにたった今『ガリスタ』も間違えたばかりだが、今までずっと『ガソリン』しかなかったのだから、正直オマケして欲しい。
「ちっ、良いんだよ。どっちでもよぉぉっ!」「ヒヒヒッ」
通じてんだから。そんな気持ちも込めて。その憎たらしい笑いからして、黒田も当然判っているに違いない。
そのとき右前方の地上で『赤いランプ』が点滅したのが見えた。黒田は黒井の前を遮るように身を乗り出す。
「おいおい。何だよ」「あそこが『目的地』だっ!」
黒井が左手で『どけ』と示せば黒田も直ぐに下がる。
「あそこが、ガ・リ・ス・タァ?」「そう。ガァリィスゥタァア」
一応黒井も指さして念入りに確認する。黒田の返事からして正しいらしい。それにしても根拠は不明であるが。
「ところでさぁ、これの『降ろし方』判らんのだけど、大丈夫?」
「馬鹿。ダメだよ。パイプラインの『中継基地』なんだぞぉ?」
散々言っておきながら、そもそも『ガリスタ』ではないらしい。




