アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十二)
波打つ鉄骨の隙間を潜り抜け、ヘリは飛び続ける。
黒田は思わず首を竦めていた。慣れたとは言え、狭い空間を高速ですり抜けるのは緊張が強いられる。無事すり抜けてホッとした。
だから黒井の『ドヤ顔』を見ても、黒田は苦笑いしか浮かばない。
「なぁ?」「だから『な』じゃねぇよ」「ヒヒヒッ」「ハァアァ!」
苦情を言ってやったのに、嫌らしく笑う顔を魅せて前を向く。
前々から思っていたのだが、実は黒井『も』相・当・性格が悪いのではなかろうか。呆れた黒田は、首を竦めて両手を肩まで上げた。
どうせ見ちゃいないだろう。そう思って、聞こえるような大きな声で溜息をつき、更には上まで見上げたのだが。
「おいっ! 何か煙が出てるぞっ!」
この煙は何の煙だ? 判る訳もないが『異変』である。
「じゃぁ次は、京成の線路で行ってみようっ!」
聞いちゃいない。前のめりになって集中しているのは判るが、そんな『遊んでいる状況』でもないはずだ。
「おいっ! 見ろよっ! コレ、何の煙だ?」
黒井の肩を叩くが、それでも前を向いたままだ。
操縦の邪魔をしたらマズイとは思う。だから軽く『トントン』としただけ。本気で殴ったら肩が外れる。しかしもしかしたら、それで『大したことではない』と受け取られてしまったか?
「良いから見ろってっ! 煙が出てるって言ってんだろっ!」
「うるせぇ、邪魔すんなっ! 掴まってろっ!」
最初は国鉄のときと同じく『ガードの下』を潜ろうとしていたに違いない。それが近付くに連れて『無理だ』と判った。
左にカーブするにつれ、『フェンス』が見えて来たからだ。どうやらアンダーグラウンドで、『一般車通行可』となっている道路になっているらしい。きっと右側にある足立市場までだろう。
「ちっ、下は無理か」「うわっ!」「ふっ。おいおぃ」
後ろから黒田の驚く声だけは聞こえたのだろう。線路を越えるのは一瞬だ。過ぎ去ってから振り向く。
駅が近いので、ホームにいた乗客は『何だ?』と思ったかもしれない。もしかしたら風圧でスカートが捲れた娘も居たかも?
「ちゃんと『掴まってろ』って言ったぞぉ?」
残念。しかし世の中、そんなに都合良く拝める事象ではない。
「捕まる?」「はぁ? 何言ってんだぁ? どっか打ったかぁ?」
横を見ていた黒田には『そう聞こえた』のかもしれないが、完全なる誤解。誤字脱字だ。確かに昔の黒田なら、きっと『好み』ではあったはず。しかし今の娘は若過ぎた。お年玉をせびられるだけだ。
「良いからコレ見ろよっ!」「何だよ」「ホラ、これだよコレ!」
指さして見せるが、如何せん黒井からは良く見えない。チラっと前を確認してから振り向き、グッと体を入れ込んで覗き見る。
「何だ。そんなの『ただの煙』じゃねぇか」「大丈夫なのか?」
チラっと振り返った黒井がサラリと答える。それどころか、一目見たと思ったら直ぐに前を向いてしまったではないか。返事も無い。
「おいおい、大丈夫なんだろうなぁ?」
大切なことだから二度聞きました。腕を大きく振りながら。




