アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十一)
「流石俺だぜ」
一人呟く。調子に乗るのは良くないことだ。
しかし今は言わざるを得ない。こんな狭い空間でよそ見をしながらでも、ヘリを巧みに操っている。廃ビルはあっという間に後ろへ。
「何言ってんだこの野郎っ!」
あら、聞こえていたようだ。黒井は眉毛をピクリと動かした。
それでも『見事な操縦』であったことには変らない。再び『定位置』へやって来た黒田に向かって『ドヤ顔』をしてみせる。
「前見て運転しろっ!」「イテッ。何だよ」
得意満面の顔に向かってデコピンだ。しかも結構痛い奴。
まぁ、壁に激突した『誰かさん』よりは、痛くはないのだが。
お互いにそれが判っているからこそ、ニヤニヤし始めていた。
「しっかし、今のはアブなかったなぁ。何かかすったぞ?」
無事だからこそ笑える。黒田は『音がした方』を指さして笑う。
「問題ない。どうせ『足』だよ。あれ位余裕! 任せろっ!」
前を向いているので黒井の笑顔は確認出来ないが、声の調子、顎のフリ方から見てきっと笑っている。首筋の冷や汗は凄いが。
黒田は苦笑いして『そういうこと』にしておく。
「じゃぁ任せるから、荒川から外に出るか」「了解了解ぃ」
この辺は土地勘がある。言葉通り任せて貰おうか。
「これ、四号だろ」「判ってるって」
大通りに出た。比較的『飛ばし易い』道。国道四号線だ。
これを真っ直ぐに行けば、隅田川を渡って荒川に出る。大空まであと少しの辛抱だ。まぁ渋滞もないし、ヘリなら何分も掛かるまい。
「国鉄だ。架線に気を付けろ」「じゃぁ、潜るか」「おっとぉ」
言うが早いか高度を下げる。黒田は衝撃に驚き掴まり直す。黒井はそんな黒田をチラっと見て笑う。
「しっかり掴まってろよぉ!」「ぶつけたら意味ねぇだろうがっ!」
よせば良いのに加速とは。気を付けて行くなら減速すべきだろ。
「うぅぅぅっ!」「バカバカバカバカッ!」
気を付けてなんていなかった。寧ろ楽しんでいる。
『ゴォォォォッ!』『ウワァァァァッ!』
「よいしょぉっ!」「よいしょじゃねぇ! 全くぅ」
上手くすり抜けた。今度は上から何か物音がしたような。黒田は気になって、上を見てから後ろを見た。問題ない。
常磐線の高架橋があっという間に遠ざかって行く。
「大橋渡ったら、次は京成か」「あぁ」
東京で『大橋』と言ったら『千住大橋』のことだ。江戸時代は。
黒井が左手をグニョーンとさせながら伸ばした。
「下潜って行くぅ?」「止めとけよ」「何だよ。つまんねぇのぉ」
「そういうことじゃねぇんだよ。直ぐ横が駅だろうが」
「あぁ、そう言えば駅だったな」「そうだろう? 思い出せよ」
「思い出したけどさぁ、あそこは『何て駅』だっけぇ?」
「そんなの『千住大橋』に決まってんだろっ!」「そっかぁ」
わざとらしい言い方。何だか嬉しそう。黒田は嫌な予感がする。
「そっかじゃねぇよ。他に何て名前に、うわっ! そっちぃぃ?」
『ブンブンブンッ!』「いや『下り線』コッチみたいだからさぁ!」




