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アンダーグラウンド掃討作戦(五百三十)

「使う訳ないだろうがっ!」「あっ!」

 バシッと叩き落したパラシュートが転がって行く。そのまま吸い込まれるように、闇へと消えてしまった。新品だったのに勿体ない。


「ここで操縦しながら、どうやって使うんだよっ!」

 確かに使えない。墜落しそうなヘリコプターから、『パラシュートで飛び降りたパイロット』なんて、今まで見たことも無い。


「だからって、捨てるこたぁないだろぉ!」

 一理ある。この場合、黒田の方が正しいだろう。しかし黒井にしてみれば、『黒田の言い分』など聞くつもりは無い。


「うるせぇっ! 自分だけ助かろうとしやがってっ」「ちょっ!」

 ですよね。でも黒田は元々『そう言う奴』なんですよ。判っているからこそ、黒田が脱いだパラシュートに手を伸ばしたのだ。


「こんなもんがあるから『邪な考え』が浮かぶんだっ!」

「ヤメロよっ! これは俺のだっ!」「黙れクソじじぃっ!」

 きっと黒井は『目にした奴』を全部捨てるつもりなのだろう。

 それも当然と言える。少しは『パイロットの気持ち』になって、考えてみれば判ることだ。

 パラシュート降下作戦でもないのに、自分が操縦する航空機から『脱出したい』なんて言われたら、一体どう思うだろうか。


『えっ? もしかして、酔っちゃった? ビニール袋もない?』

 とか考えて、安いプライドに傷が付いてしまう。


「前見ろ前っ!」「捨ててやるから、こっちに寄越せっ!」

 黒田が黒井の手を叩くのを一時止め、前を必死に指さしているのに、黒井は掴んだパラシュートをまだ引っ張っている。


「見ろって!」「嘘つきじじぃ! その手には乗らねぇんだよっ!」

 今度は顎で示し、両手で引っ張り出した。しかし黒井も離さない。

 すると黒田は、右手を『空手チョップ』の形にして掲げた。


「俺は言ったからなっ! とうっ!」「あっ! このぉっ!」

 腕を折られる予感。『黒田の本気』を黒井は何度も見ている。人間離れした馬鹿力の持ち主なのだ。今の目は正に『本気の目』。

 空振り。硬い所を殴打していた。しかし『相当痛いであろう』と思われるのに、それを顧みず、さっさと装着し始めている。焦り?

 遅れませながら、黒田はパッと前を見る。


「早く言えよっ!」「俺は言ったぞっ! じゃぁなっ!」

 廃ビルが迫っていた。かなりの近くまで。操縦桿を握り締める。

 今、何となく黒田が『別れの言葉』を言ったような気もするが、『お元気で』とか、気の利いた返事の一つも返す暇が無い。


「ぬぅおおおおおおっ!」「おわっ! この野郎っ!」

 叫びながら急旋回していた。右へ。機体が九十度傾く程に。

 そうなると、流石の黒田も逃げられない。何しろ水平だった床面が、瞬きしている間に『壁』へと変化しているのだ。『ストン』と『新しい底』になった機体右側面へと叩き付けられる。


『カリカリカリッ! パシューンッ!』「下手くそぉっ!」

 何かをかすめる音が断続的に響く。その音に混じって、『聞き覚えのある罵声』が聞こえて来て、黒井はニヤリと笑った。

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