アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十八)
「良いかぁ? 手前にあるビルから見えないようにな? キュンと」
判っている前提で指示が続く。黒井は慌てる。
「だからじじぃっ! 『どのビル』だよっ!」
黒田じじぃが指す方には、沢山の廃ビルがあったのだ。
「はああ? お前『あれ』が見えないのぉ? 耳鼻科行って来い?」
呆れたと言うより『嘘だろ?』と言う感じ。黒田には『黒井が判らない』と言う理由が判ってないようだ。
「保険証が無ぇよっ! じゃなくて、何で耳鼻科なんだYO!」
「あぁ、耳鼻科より脳外科かぁ」「眼科っ! ガ・ン・科!」
再び口喧嘩が始まっってしまった。しかしヘリの動きはそのままだ。追う方にしてみれば、追われているヘリの中で『喧嘩している』だなんて、知る由もない。想像すらしてはいないだろう。
「そんな言い方だと、何か『がんセンター』みたいだなぁ。築地の」
「知るかっ!」「じゃぁ、やっぱり『目の癌』ってのもあるぅ?」
「あるある。眼癌あるっ!」「診察は、『眼癌科へどうぞぉ』て?」
「そうっ。ガンガン行こうぜ眼癌科。皆で良くにゃりゃ怖くない!」
「あぁ、運転手さん。そこの角を左ねぇ。そこで上にキュンッと」
黒井が『交通標語』みたいなことを言ったからだろうか。まるでタクシーにでも乗っているかのよう。いや『上への指示』は無いか。
「だから何処に行くんだYO! あれ? おいぃぃっ!」
「よぉし、ちゃんとついて来てるなぁ。一丁やったるかぁ!」
運転手は角を曲がりながら客に確認したのだが、肝心の客は後ろの方を気にしていて全く聞いちゃいない。
それどころか弾切れの重機関銃の横に立ち、追手に向かってケツを露わにしたではないか。器用に『凸』を隠しながら。
「鬼さんこちらぁ♪ 手の鳴る方へ♪ (ペチペチ)」『バババッ』
驚いたのは敵ではなく、寧ろ黒井の方。機銃掃射より驚きだ。
「なぁにやってんだよっ! 病院行って診て貰って来いっ!」
するとベルトをカチャカチャやりながら、黒田が戻って来る。もちろん満面の笑みだ。黒田も『狙われた』のは判っているだろう。
「悪いなぁ。病院まで送ってくれるのかぁ?」
「あぁ。案内しろ。着いたら病院の上から、蹴り落としてやるっ!」
「乱暴だなぁ」「行先は『陸軍病院』で良いのか?」
「あそこの病院看護師男ばっかりでさぁ。美人がいる所が良いなぁ」
「注射は顔でするもんじゃねぇから」「そぉかぁ?」「そうだよっ」
どうやら二人は異なる経験をしたようだ。意見は一致しなさそう。
「でも、やっぱりダメだな」「何でだ? カルテとかあんだろぉ?」
元陸軍に対する嫌味だ。すると黒田は苦笑いでケツを押さえた。
「だってぇ、あそこにはぁ、『肛門科』って、無いだろぉうぅ?」
「ケツ撃たれたのかっ! 診せて見ろっ!」「いやぁん♪」
驚いた黒井が振り向く。直撃か? それともかすった? 何れにしても『ぢ』、いやもっと『切れ痔』のレベルなら深刻だ。
黒田の上半身を押し退け、下半身が見える位置にまで体を伸ばす。
「んな訳ないだろうがぁ。当たってたら体がバラバラだぞぉ?」
「何だよ紛らわしいぃ」「何だかんだ言って『仲間想い』なんだな」
正直焦ったのは事実。しかしそんな気持ちも直ぐに吹き飛ぶ。
何しろ『前照灯が消されていた』からだ。黒田の手によって。




