アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十七)
コックピットで始まった楽しい言い争いだが、現実はそう甘くはない。何しろ『本当の弾』が時折飛んで来ている。当たったら痛い。
そんな中、黒井は『黒田の指示通り』に飛び始めた。
「じゃぁ次、あのビルを右から回り込んでみようかぁ」「あいよぉ」
指示通りとは言っても、真っ直ぐに飛んでいる訳ではない。
後ろからの攻撃を巧みに躱しながらだ。黒井に言わせれば、『撃たせないようにする』のが難しいのだとか。
『ババババッ!』「へったくそぉっ! また外してやんのっ!」
黒井はフェイントが成功して大満足だ。弾が明後日の方向に飛んで行く。そのまま廃ビルに当たったのが見えた。
どう見ても射手は『素人』だ。最初は『わざと? 作戦か?』とも思っていたが、明らかにタイミングも撃つ方角も違い過ぎる。
「お尻ペンペーン! 屁の河童♪ プリッ♪」
黒田は自分の尻を叩きながらおちょくっている。ご機嫌だ。
しかし誰が見ていると言うのだろう。見ていたら、それこそ『怒りが爆発』するに違いない。その前に黒井が切れるか。
左手を操縦桿から離して顔の前でパタパタしている。
「こんなときに『屁』したのかぁ? 臭っせぇなぁ」
「ホレ。遠慮すんな」「うわっ! 何すんだYO!」
黒田がすかさず『握りっ屁』を鼻先にぶちまけたではないか。
「うはは。かぐわしい香りだろぅ? 次、あの鉄塔超えて行くかぁ」
「何食ったら『こんな臭い』になるんだよ。くっせぇなぁ」
黒井の顔は人とは思えない程に歪んでいる。器用にも鼻を曲げて。
しかし飛行経路はあくまでも『指示通り』だ。敵も射手とは違い『操縦士はプロ』らしく、黒井の後をキッチリと追い掛けて来る。
「同じモン食ったんだから、お前だって同じ臭いがすんだよっ!」
「じゃぁ、さぞや高貴で『かぐわしい香り』なんだろうな。ブッ!」
黒井が放った今の『ブッ』は効果音だけなのに、黒田の顔が歪む。
「うっ臭っさぁ」「そ、そんなに臭う訳ないだろうがっ!」
「お前若いのに『腸内細菌』が全部『悪玉』なんじゃねぇの?」
「それはじじぃだろう! 腹ん中ぁ『どす黒い』癖にぃ」
「そんなことないよぉ。『黒い善玉菌』だよぉ」「居るかぁ?」
苦笑いで振り返った。すると黒田がそこに居ない。
「窓開けるかぁ」「何だよ! そもそも後部ドアが全開だろがっ!」
「フーッ新鮮な空気ぃ。生き返るぅ」「淀んだ空気でも吸ってろ!」
外の様子を見ながら両手で『深呼吸』していた黒田が振り返った。
満面の笑みである。確かにアンダーグラウンドの空気は重く淀んでいる。が、たっぷりと吸い込んだことによって、大分スッキリとしたらしい。清々しさも感じられる。
『ババババッ!』「へったくそぉ! ちゃんと狙えっ!」
今度は明々後日の方角に機銃掃射が。このまま『弾切れ』だろう。
「そろそろ『地形』は覚えたな?」「えっ? あぁ。大体なぁ?」
黒田なら一緒に茶化すと思ったのに。黒井はパッと振り返った。
ほら見ろ。ニッコリと笑っているではないか。目だけは鋭いが。
「じゃぁ天井スレスレに『あのビル』へ向かえ」「ん? どれだ?」
黒田が『ピッ』と指さした方を見て黒井は迷う。ビルが無いのだ。
正確には『真っ黒な壁』が立ち塞がっている。




