アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十六)
接近していた二機が離れて行く。再び『ケツ取り合戦』の開始だ。
黒田は笑顔で首を傾げながら、敵の姿を追っている。操縦席の横を離れ、暗闇の奥へと消えつつあるOHー1の姿を。
「くそっ! 奴は何処へ行ったっ?」「あっちぃ」
既に『微妙に動くシルエット』と化していた。
良く見続けていないと判らないだろう。それがグルーっと回って、徐々にこちらの方へとやって来る。
「何処だよっ!」「あっちだよ。ホラホラ。後ろ取られるぞぉ」
旋回能力も速度も向うの方が上か。勢いが違う。加えて『腕も』とは言わないが、相当頭に血が上っていると見た。
ヘリの頭をグンと下げて、勢いを増しているのだ。
「見えねぇんだから、ちゃんとオ・シ・エ・ロ・YO!」
「だからあっちだってぇ。向こうは速ぇなぁ」
障害物に使えそうなビルの陰に入ってみたり、普通に電線を避けたり、機銃で撃たれるのを想定して左右に振ってみたり。
敵の位置が判っていれば、する必要のない操舵である。
イライラしてチラっと振り返った。隣に居ない。何処だ。後ろか。
「何処だよっ! あっちじゃ判んねぇだろうがっ!」
黒井は一言罵倒して直ぐに前を見る。廃ビルが迫っているのが判っていたからだ。それと入れ替わるように黒田が振り返った。
「ちゃんと指さしてやってんだろうがぁ。何だ。見ろよぉ」
何を言ってるんだ。方位とか距離とか進んでいる方向とか、何か言い様があるだろうに。それを全て省略して『あっち』とは。
黒井にしてみれば冗談じゃない。ちょっとした悪夢だ。
折角後ろを取ったのに、振り切られてしまった格好なのだから。
廃ビルを避けて右にバンク。スレスレの所で躱す。
「だから『あっち』だって、言ってんだろうがよぉ」
黒田が黒井の隣に戻って来て笑う。親指で『あっち』を指した。
「忙しいんだよっ! て言うか『後ろ』取られてんじゃねぇかっ!」
思わず振り返ろうとしたが、黒田とキスしそうになるので止める。
なんてこった。結局再び『追われる身』である。
「お前今、結構『スレスレ』で避けたじゃねぇか」
ポンと軽く肩を叩く。今のは多分『褒められた』のだろうが、黒井はギロリと黒田を睨み付ける。『触んじゃねぇ』とかブチかますまえに、黒田がスッと前を指さした。
「何だよ。前からも来たのかYO! 何も見えねぇぞっ!」
今までの『指さし』は、イコール『敵が居る方角』であった。居ないのは判っている。勿論『当てつけ』だ。
「ちげぇよ。大体お前、『二対一』でも勝てんのかぁ?」
馬鹿にして笑ってやがる。黒井はカチンと来た。
「余裕だよ。『三対一』でも勝ってやるよ。ドンドン連れて来いよ」
「スッゲェなぁ」「あぁ、俺はスッゲェんだよっ!」
大きく頷いた。態度と風呂敷はデカい方が良いと決まっている。
「じゃぁ、あと三機呼ぶか! あの辺とこの辺、あと向こうかなぁ」
黒田が虚空を三回指さす。それだと合計四機では? 絶対適当だ。
「だったらF2に乗せろやっ!」「おっ! 今度発注するぅ?」
「出来んだなぁ? 絶対だぞ? ミサイル満載で、あと燃料もっ!」




