アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十五)
商店街の出口に向かって加速する。黒井は目を見開いていた。
完全に逝っちゃってる。もしかしたら、そのまま地面に衝突させるつもりなのかもしれない。どうせ燃料は残り僅かだし。
「オラオラオラァァッ! しっかり掴まってろよぉっ!」
「行け行け行けぇぇっ! そのままブチかましたれっ!」
二人共身を乗り出して、OHー1に狙いを澄ましている。
完全にぶつける気だ。怖くないのだろうか。いや、恐怖を感じたのは、寧ろ『狙われている方』のようだ。急に加速し始めた。
「逃がすなっ!」「フルパァウァーッ」『ブルルルルッ!』
唸るエンジン。黒井の両腕が前へ真っ直ぐに伸びて硬直している。
サーチライトに照らされた穴だらけのアーケード越しに、チラチラと臼蔵少尉の姿が見えた。振り返って見上げている。
もしかしなくても、黒井と目を合わせられる距離だ。しかし黒井の方は『成す術の無い前席の奴』など眼中にない。
OHー1はアーケードを抜けると迷わず急上昇。上なんて微塵も見ていなかった。敵が来ようと関係ない。そんな気概も。
「糞! 糞!」『ガクン』「おわっ」
黒田はまるでそこへ顔を突っ込んでしまったかのようだった。
OHー1の尻尾に、ブラックホークのメインローターが当たりそうな距離へ。しかも互いの相対高度が一時逆転した。
沈み込んだブラックホークの風圧で、砂埃が勢い良く舞い上がる。
しかし直ぐに同じ高度となって、ピッタリと後ろに張り付いた。
「一発でもあればなぁ」「さっき撃っちゃっただろうがっ」
互いにニヤリと笑う。そんなの判っている。今なら確実に『ハチの巣』にすることが出来るだろう。あぁ前に撃てる機銃さえあれば。
それにしても、さっきまでの『興奮』は何処へやら。
やはり黒井はパイロットとして冷静だった。ちゃんとヘリの特性を理解して、『自ら激突する』なんて作戦は採らなかったのだ。
口をへの字にして隣の黒田に問う。
「これも『作戦の内』なのかぁ? えぇっ?」
今度はOHー1が左右に揺れていた。攻守交替の様相だ。
「いやぁ、バリケード、簡単に越えられちまったよなぁ」
「そうなのか?」「見てないの?」「あぁ」
「有るの判ってるみたいに、手前で減速までしやがってさぁ」
「マジかぁ。敵ながら『良い腕』してるぜ」「それに『勘』も良い」
珍しく黒田が敵を褒めるだなんて。味方すら褒めないのに。
黒井は『良く見ろ』と言いたい。相手を上げておきながら、その動きに追従する自分も『凄い』と言っているのだが。
「今度相手が『フェイント』掛けて来たら、ハマってやれよ」
黒田の指示は、黒井の技量を『一段落とす』ようなものだった。
「はぁ?」「何だ。出来ねぇの?」「出来るよ」「じゃぁやれよ」
「これでも俺は『結構出来るパイロット』、なんだぜぇ?」
苦笑いだ。判った判った。きっとこれも作戦の一環なのだろう。
「ハイハイ。凄いでちゅねぇ。お願いちまちゅねぇ」
「何かムカつくなぁ」「ホラッ! 今の『フェイント』だろっ!」
OHー1が右に振った後、素早く左へ振ったではないか。
「あれぇぇっ引っ掛かっちゃったぁ」「何か違うなぁ」「おいっ!」




