アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十四)
「ちきしょう! 覚えてるよっ!」
横倒しになったヘリを、どうやって上昇させるか。今はそれが問題である。果たして浮力をどうやって生み出すか。
『ババババッ!』『カンカンカン!』「ぬぅっ!」
機銃の音がした直後に何やら天井から音が。金属音だ。
思えば旋回中にローターを敵に晒していた。どうやらそこへ食らってしまったようだ。何処へ被弾した?
少なくとも『エンジンではない』ことを今は祈るしかない。
「まだまだぁっ!」
ヘリに対する信頼だろうか。それとも期待か。黒井は操縦桿を握り続ける。まだ飛んでいる間に諦めるだなんてしたくはない。
どうせ天井は見えないし、今見た所でどうにかなるものでもない。それにまだコイツは『飛びたい』と言っている。そう感じる。
ならば飛んで貰おうではないか。大空に向かって。
「うおりゃぁぁぁっ!」「バリケードそのままだぁ。懐かしいなぁ」
窓を曲がった所に高く積み上げられたバリケードが。
本来は自動警備一五型の進路を妨害するためのものであるが、まさかヘリの空路を妨げることに使われるとは。
これは『手慣れた』と言って良いのだろうか。
黒井は素早く機を水平に戻すと一気に操縦桿を引いた。グンと機首が上がってそのままバリケードを超えて行く。
少々上げ過ぎたのかテールを擦ったのが判った。しかし金属同士が擦れる火花が散ったものの飛行に影響は無さそうだ。
それよりも問題になりそうなのは、機首の方だった。
「おいっ、屋根に当たるぞっ!」「行っけぇぇっ!」
「おぉおぉおぉぉいっ!」『バリバリバリッ!』
流石の黒田も衝突する瞬間は目を瞑っていた。
仮に『墜落』となった場合でも、この高さなら死にはしないと思っている。少なくとも自分だけは。しかしまだ『浮遊感』がある。
「どぉだぁあぁあぁっ!」
エンジンは絶好調。黒井は商店街の屋根を突き破って踊り出る。
バリケードを造ったときのことを詳細に思い出していたのだが、『天井に穴がある』ことも思い出していた。
何せ大穴を開けたのは、黒井自身であったからだ。
アーケードの屋根は確かに『鉄骨造り』ではあったものの、長い間メンテナンスもされず錆びて既にボロボロであった。
だから風が吹き荒むことのないアンダーグラウンドに於いて、辛うじて原型を留めている状態であったのだ。
黒田は上空に上がってから後ろを覗き込む。
すると敵機は悠々と角を曲がり、バリケードも楽々と乗り越えてしまっている。単なる『時間稼ぎ』にしかならなかったようだ。
そして再び加速しながら『商店街の終端』へと向かっている。
「上から押し潰してやれっ!」「はぁっ? じじぃ正気かぁ?」
黒田が下を指さすも黒井は躊躇している。折角高度を取ったのに。
「車じゃねぇんだぞっ! こっちも巻き込まれるわっ!」
「こっちの方がデカいから大丈夫だっ! 男なら突っ込めっ!」
「やってやろうじゃねぇか。ちびんなよっ?」「おぅ行ったれぇ!」




