アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十二)
黒井は右に旋回して『黒い影』を避けた。
下から見たときも『大きい』と感じたが、空中から見たら『障害物』以外の何物でもない。実際は『現役のビル』なのだが。
「吉原ビルはでっかいなぁ」「ライトのスイッチはコレか?」
黒井の感想に対し、黒田は『変な質問』で返して来た。
見れば腕を伸ばして指先を掛けているのは、確かに『照明のスイッチ』ではないか。思わず手を『パチンッ』だ。
「触んなっ!」「触んねぇよ」「じじぃ、絶対触るよぉ」
黒田の顔を睨み付けるが、ヘラヘラと笑ってやがる。怪しい。
絶対『余計なこと』を企んでいるに違いないが、今は触らなければどうということはない。それもこれも燃料が切れるまでの間だが。
「良し。じゃぁ、俺の言う通りに飛べ」
腕を引っ込めたのは良いが、また『良からぬ指示』が飛び出す。
「出たよ。どうせ碌な作戦じゃねぇんだろぉ?」
さっきから左右に機体をぶん回しながら、必死に回避をしているのだが、それをしながら『何処へ行け』と言うのか。
「良いじゃねぇか。この辺の建物の位置は、良く知ってんだろぉ?」
グルリと腕を回しながら言う。黒井は黒田がどさくさに紛れて、『余計なスイッチを触るんじゃないか』と思い、ヒヤヒヤしている。
「判るけど、上からと下からじゃぁちょっと違うのっ! 素人がぁ」
「だとしてもバギーで散々走り回ったんだ。全部覚えてんだろぉ?」
無茶を言う。黒井は思わず溜息だ。まさかヘリで飛んでいるのに、『C4の位置を思い出せ』とか言うんじゃないだろうな?
「バギーじゃ高さとか空中の障害物とか判んねぇだろっ! たくぅ」
アンダーグラウンドが出来る前、元々あった送電線に変わって、アンダーグラウンドを縦横無尽に送電線が走っている。
地下に埋めるより、誰も居ないことになっているアンダーグラウンドの空中を這わせた方が安上がりなのだろう。
それをさっきから巧みに避けているのだが、判らないのだろうか。
「じゃぁ、早く覚えろ」「無茶言うなぁ。このじじぃはぁ……」
言ってる傍から左へ旋回。今チラっと見えていたのは最近確保した『拠点』の一つ。送電線からちゃっかり『盗電』している。
「ほらほら、早く覚えないと、ドンドン追い付かれるぞ?」
黒田が左後方を指さした。しかしそれを黒井は鼻で笑う。
「いやもう追い付かれてるだろう? こっち見ろよ」
黒井が指さしたのは反対側の右横だ。すると確かに、右側から敵機が現れたではないか。直ぐに右旋回して操縦桿を倒す。
二機は狭い空間でクロスした。追うOHー1が避けた格好だ。
井学大尉も勝利を目前にして、『空中衝突』は避けたかったのだろう。どうやら相手は『弾切れ』らしいし、慎重に追っているのだ。
「じゃぁグズグズしてないで、尚更早く覚えろよっ! 丸腰野郎が」
パチンと黒井の背中を叩く。黒井はジロリと睨み付けた。クソが。
全弾撃ち尽くしたのは誰だよ。それに、例え『地形』は覚えらずとも、その『黒田の笑顔』だけは忘れないからなっ!
「ハイ覚えたねぇ。時間切れぇ」「はぁ? そんな直ぐに覚えらr」
「よしっ! 作戦決行だっ!」「ちょっ! 待て待て待て待てっ!」




