アンダーグラウンド掃討作戦(五百二十一)
何故か敵が撃って来ない。もしかして弾切れか?
橋の下を潜るので精一杯だった黒井だが、ホッとしたからか『追われている』ことを思い出す。だからだろう。目の前にあるはずの『桜橋』が、この世界には存在しないことに気が付いていない。
「山谷堀を行けっ!」「はっ? 何処っ?」「そこを左だっ!」
目印がない。しかし丁度回避運動をしようとしている所だった。
右に振っていた機体を左に傾けて旋回。『多分あの凹みであろう』所に向けて進路を取る。直ぐに思い出していた。
「何か『ピックアップ』するのかっ! 何処に行けば良い?」
ここは『ブラック・ゼロ』の本拠地である。言わば『ホーム』に帰って来たのだ。きっと黒田には何か『作戦』があるに違いない。
じじぃ返事は?。チラっと振り向くと重機関銃を構えていた。左旋回したついでに、後ろから付いて来る敵機を狙っているのだろう。
『カチカチッ!』「ニィィィッ♪」
実に楽しそうな満面の笑みだ。瞳は輝き、口角は上がっている。
それでいて歯が見えるように口まで開けちゃって。良く見れば、口元がちょっとだけ『ピクピク』しているような気が。
「ちきしょうっ! 弾切れだっ!」『ババババッ!』「うわっ!」
向こうさんは絶好調。惜しげもなく撃って来やがった。
黒田が肩を竦めながら操縦席の方に駆け込んで来る。そんなに被弾するのが嫌だったら、先ずはドアを閉めれば良いのに。
「何処で補給するんだ?」「んん? もう燃料切れか?」
今『切れた』のは『弾』の方なのに、突然の返しに黒井は驚く。
慌てて『燃料計』の表示を指さし確認すると、『残り僅か』となっているではないか。今更ながらであるが。
「何で『満タン』にして来なかったんだよっ!」
燃料が切れる前に黒井が切れてしまっている。
「だってぇ『直ぐ着く』と思ったからぁ。他にも馬鹿がいるなんて」
モニョモニョ言って口を尖らせる。これが『可愛い娘』なら許せるのだが、如何せん相手が相手。許せる訳が無い。気分は死刑だ。
「普通『満タン』にして納車して貰うだろうよぉ」
そんなことはない。売主から仮に『OK』の返事を貰ったとしても、実際に納車されてみると『ギリギリ』だったりするものだ。
「そんな面倒なこと、する訳がないだろう」
黒田の方が良く判っている。だから『弾』の方にしたのだ。
「ちっ。しかし何で軍が『アメリカの兵器』なんて買ったんだぁ?」
黒井は頭を捻った。軍が『ヘリ一機』とか半端な買い物するか?
「あぁ、違う違う。コレ買ったの『軍』じゃねぇよ」
「はぁ? どう見ても『軍仕様』じゃん。何処が買ったんだよ?」
「分解調査するって名目で『NJS』が買ったんだ」
「NJSって秋葉原に本社があるぅ? ヘリ造ってんのぉ?」
だから秋葉原駅に輸送していたのか。納得だ。しかしぃ?
「造るんじゃね? 少なくとも『書類上』はそんな感じになってる」
再び口を尖らせる。道理で『受け取り』に、誰も来なかった訳だ。
「わっるい奴だなぁ」「お前程じゃないよ」「何を言ってんだよ」
穏やかに肘でド突き合う二人。実に微笑ましいのだが、それで燃料が増える訳でもない。正面には大きな『黒い影』が迫っていた。




